研究課題/領域番号 |
15K12232
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森崎 久雄 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50125671)
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研究分担者 |
土屋 雄揮 立命館大学, 生命科学部, 助教 (10636806)
江田 志磨 立命館大学, 生命科学部, 助教 (50420005)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電気浸透流 / バイオフィルム / ゼータ電位 / 電気泳動 / イオン強度 |
研究実績の概要 |
次の2点で成果、進展があった。1. 電気浸透流を用いたバイオフィルム(BF)ポリマーの荷電特性解析システムの構築、2. 上記システムによるBFポリマーの荷電特性の解析および比較検討 概要は次の通りである。 1. 電気浸透流を用いたBFポリマーの荷電特性解析システムを構築した:キャピラリー電気泳動、マイクロチャンネル等では、ガラスのように荷電を持った表面を利用し電気浸透流を発生させている。表面荷電が未知のサンプルを対象とする場合、測定システムの表面自体が荷電を持っていては、正確な測定はできない。そこで、本研究では表面が電気的に中性の材料(プラスチック)を用い、測定システムを構築した。電源装置は高電圧(1kV程度)まで安定して出力できる装置を用いた。サンプルおよびシリンジを溶液で満たし、両端に電圧をかけた。なお、溶液のイオン強度が高いと水の電気分解により多量の気泡が発生し、測定が困難になると予想されたため(実際そのようになった)、イオン強度を低くしてもpHを維持できる緩衝液組成を考案し、実験に供した。 2. 上記システムによるBFポリマーの荷電特性の解析を進めた:上記で構築した新たなシステムで(1) 淡水中の石表面に形成されたBFポリマーを採取し、その荷電を様々なpHで解析した。次に、(2) 得られた電気浸透流の速度をゼータ電位に変換するための手法について検討を重ねた。今後、(3) ゼータ電位への変換法を確立し、同一サンプルを用いて、電気浸透流法と電気泳動法で得られたゼータ電位を比較し、電気浸透流解析システムの信頼性を確認する予定である。その後、(4) 電気泳動法では測定困難な様々なサンプルの荷電特性を電気浸透流法により解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電気浸透流測定システムの構築、低イオン強度緩衝液組成の考案は予定どおり進み、良好な結果を得た。しかし、電気浸透流の速度をゼータ電位に変換する方法の開発に予想以上の時間と労力を要した。理由は以下の通りである。 測定対象であるバイオフィルムをガーゼに拭き取り、細いプラスチックシリンジ内に詰め、内部を緩衝液で満たし、シリンジ両端に電極(白金線)をセットし、両端に電圧を加えた。その際発生する溶液の流れの方向、流量から測定条件下におけるサンプルの荷電(正か負か)および電気浸透流速度を知ることができた。しかし、得られた電気浸透流速度をサンプルのゼータ電位に変換するには、サンプルの孔隙率および溶液の実質的な流路の長さ(サンプルを拭き取ったガーゼ中を溶液が流れるが、流路はまっすぐでなく、かつ太くなったり細くなったりしている。これらを考慮した流路の長さ)を知る必要がある。 サンプルの孔隙率および溶液の実質的な流路の長さをどのように求めるかに、かなりの時間を要した。当初流体力学的に求めることを試みたが、うまく行かなかった。最終的に電気化学的な方法で求めることができた。この方法は、要約すれば次の通りである。1. 電気浸透流測定時と同じように、システムおよびサンプルをセットする。2. 次にシステム内に、適度な濃度の塩溶液を満たす。3. 次に、様々な電圧で電流を測定する。 上記のようにして得られた、電圧-電流値の関係、この関係がサンプル装填時と非装填時でどのように変化するか、からサンプルの孔隙率および溶液の実質的な流路の長さを見積もることができた。
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今後の研究の推進方策 |
電気浸透流速度をゼータ電位に変換する方法には目途がついた。今後は、次のように研究を進める。 1. 本研究で得られた値の信頼性の確認:本研究で得られたサンプルのゼータ電位(本研究で考案した方法で電気浸透流速度から求めたもの)を従来の電気泳動法で得られたゼータ電位と比較し、本研究で開発・考案した装置、方法の信頼性を確認する。 2. 様々なBFサンプルの荷電特性を本研究の方法で解析する:上記1. で信頼性を確認後、様々な環境で形成されたBFポリマーの荷電特性を解析する。微量で従来の電気泳動法では測定困難であったサンプルも対象とする。 3. 電気浸透現象を利用したBFポリマー中の間隙水の強制交換:一般にポリマーが絡み合った内部に溶液を送るには抵抗に打ち勝つため、大きな圧力を要する。これに対しポリマー自身が荷電を持っている場合、電気浸透現象により、比較的容易に(電圧をかけることにより)溶液がポリマー間の領域に侵入していく。この現象を定量的に解析し、将来の応用(薬剤溶液のバイオフィルム内部への電圧付加による注入)に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
照明条件、背景等を工夫し、既存のカメラを試したところ、電気浸透流計測が可能となった。そのため、高性能カメラを購入する必要がなくなった(A)。一方、バイオフィルムポリマーがどのような微生物によって生産されているかを確かめるため、微生物の分離、培養が必要となった。そのための器材、試薬等を購入した(B)。これら(A)と(B)を主な要因として、結果として使用額が予算額より少なくなった。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
バイオフィルム中に棲息する微生物の種類を同定するため、16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析する。遺伝子の増幅をPCR法で行なうためサーマルサイクラ-、試薬等が必要となる。これら機器、試薬を購入し、研究をさらに深化させることを計画している。
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