研究課題/領域番号 |
15K12558
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
森 浩二 山口大学, 創成科学研究科, 准教授 (40346573)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ガイドワイヤー / カテーテル / 数値計算 / フーリエ記述子 |
研究実績の概要 |
血管内治療における事故の前兆現象をとらえることを最終目標として,その手段としてワイヤー状デバイス(ガイドワイヤーやカテーテル)の形状特徴量に注目している.本年度は,新規に実験を立ち上げ,数値計算との比較を行うことを計画していた.実験装置の作製や実験データ処理用ソフトウェアなどを作製し,数値計算の結果との比較を行うことができた. 実験結果と数値計算の比較は,デバイス先端の軌跡について,約0.10 mm前後の誤差であることを明らかにすることができた.これにより初年度に行った数値計算の実現象の再現精度について定量的に評価できた.本研究計画の立案時には,何らかの数値計算の改良が必要であると想定したが,この実験結果を受けて,そのような改良は不要であると判断した. 数値計算においては,病変部血管形状が同一であるが,その途中経路が異なる血管形状モデルを作成し,その途中形状が,病変部付近でのデバイス操作におよぼす影響を調べた.この研究過程において,デバイスの操作性を評価する指標として,先端移動量の線形性(手元の操作に対するデバイス先端の応答性),とデバイス先端と血管壁との接触力を用いた.その結果,途中形状が異なれば,その部位から50 mm以上,デバイスを進めても,それの影響がこれらの指標におよぶことがわかった.臨床の観点からは,似たような病変部位であっても,過去の患者の場合と同じ操作手順が有効でなく,また血管が損傷する部位も異なることを示唆している.患者ごとの術前シミュレーションが,事故低減に有効であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究計画の中で,最も困難であろうと予想していた実験装置およびその周辺ソフトウェアの整備を,順調に完了できたことから,本研究は順調な進捗状況であると言える.実験結果と数値計算結果の直接比較を行い,数値計算の信頼性について定量的に把握できたことも,大きな成果であると考えている.これは,前年度の数値計算にもとづく知見(例えば,「血管内でのガイドワイヤーの先端接触力は,ガイドワイヤーの元の形状と,実際の挿入時のガイドワイヤーの形状の類似度から推定できる」)が信頼できることを示している. また数値計算でしか実行できない条件として,病変部分の血管形状は同一であるが,そこに至る途中過程において,血管形状が異なるという条件でデバイスを挿入する数値計算を行った.これは,過去に似た病変部を治療したことがある場合に,その知見を新しい(よく似た病変部を有する)患者に,適応できるのか?という観点から,行われた数値計算である.その結果は,血管壁にデバイスが与える接触力の分布などが異なり,血管損傷が起こる可能性は,途中経路の影響を受けるというものであった.また,そのような影響は途中経路が50 mm以上離れていても,及んでいることがわかった.これらの結果は,臨床医の立場に立てば,過去に似たような病変部を治療した経験があっても,その知見を似たような病変部を持つ別の患者に直接,用いることは不適切であることを示しており,毎回,患者ごとにゼロから,予断を持つことなく術前の計画を立てる必要があることを意味している.接触力の分布などの指標は工学的な観点に基づく指標であるので,これらと臨床の観点からによる評価との関係について調べることが今後の課題である. これらのことを総合すると,本年度の進捗状況は,おおむね順調に進展している評価することが適切であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となるH29年度は,「最適な治療デバイス形状を探索する」というのが当初の計画である.おおむね順調な進捗状況であることから,この計画に従い,研究を継続していく. これらの探索は,実験と数値解析の両面から行われる予定である.3年目には実際のヒト血管の走行を模擬した血管形状モデルを利用して実験および数値計算を行うことを考えている.実験面では比較的,長い(500 mm~700 mm程度)デバイスも扱えるような挿入装置を完成させる必要がある.これについては挿入機構部分は完成しており,挿入等の操作が行えることを確認している.H29年度では,外部から実験者の意図に合致するように操作できるような外部コントローラを作製することが技術面での課題である. 数値計算においても,より大きな血管形状モデルでの計算を実行できるようにする必要がある.具体的には64 bit環境下での数値計算を実行できるようにプログラムの修正を行う必要がある.これらを通じて,より実際の治療に近い環境下で実験や数値計算を実行して,最適な治療デバイス形状に関する研究を進めていく. 本研究における,最適なデバイス形状やそれを支配する因子を見つける過程において,デバイス形状だけではなく,デバイスを操作する手順についても,最適と呼べるものを見出せるかもしれないと考えている.性能を評価できる指標を確立することが最適化の第一歩であるので,操作手順についても,何か評価指標を提案したいと考えている.これらを通じて,最適なデバイス形状と操作手順の組み合わせについて考察したいと考えている.これらの組み合わせに関する考察を通じて,血管内治療の事故予測や事故防止の知見を得られるものと期待している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,購入を予定していた実験に使用する画像取得用カメラを,既存の実験装置の援用で賄うことができたために,購入を取りやめた.
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次年度使用額の使用計画 |
比較的,長い(500 mm~700 mm程度)デバイスも扱えるような挿入装置を作製する際の各種材料費として使用する予定である.
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