本研究計画の第一の研究目標は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、脳活動パターンの類似性による連合記憶の記憶痕跡を、ヒトの全脳をカバーするように探索することにあった。 しかしながら研究を遂行する中で、海外の競合研究室より、ほぼ同様の内容の研究が発表されたため、研究目標の変更を余儀なくされた。そこでランダムドットの動きの知覚学習によってヒトの安静時脳活動のパターンがどの様に変化するかfMRIを用いた解析を行なった。その結果、動きの処理する視覚野であるMT野を起点とした安静時脳機能結合が学習前後で変化することを見い出した。わずか数十分の知覚学習の直後に安静時脳機能結合が変化することは大きな驚きであり、重要な研究成果だと言える。 また、脳活動パターンの類似性による連合記憶の記憶メカニズムについては、サルを使った研究を並行して進めてきた。その結果、内側側頭葉の皮質脳波のシータ帯域の活動の空間パターンの類似性が連合記憶を表現していること、および脳活動のパターンから記憶内容をデコードできることを明らかにした。この発見は連合記憶の脳内表現のメカニズムの一端を初めて明らかにしたものであり、殊に重要な研究成果である。実際この研究はNature Communications誌に論文掲載され、高い評価を受けたものである。 これらの研究成果をふまえて、現在、ヒトが記憶する際の全脳の脳のネットワーク活動のパターンを解析する研究を進めている。
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