研究課題/領域番号 |
15K12825
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研究機関 | 東京音楽大学 |
研究代表者 |
武石 みどり 東京音楽大学, 音楽学部, 教授 (70192630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 洋楽受容 / 演奏レパートリー / 映画史 / オーケストラ |
研究実績の概要 |
明治~昭和初期における洋楽受容の状況を把握するために、平成28年度は主に以下のような作業を行った。 ①演奏記録のデータ整理: 昨年度に集積した音楽学校、一般大学の学生オーケストラ、軍楽隊、三越少年音楽隊、船の楽団、宝塚交響楽団の演奏データ、及びピース楽譜の出版データ、さらにはSPレコードに収録され発売された楽曲のデータを相互に比較できるようにするために、日本語あるいは英語・ドイツ語等で表記されている曲目と作曲家名の表記方法を統一する作業を進めた。 ②演奏記録を補うために、早稲田大学演劇博物館、京都文化博物館、新宿歴史博物館等に残る映画館の週報を閲覧し、大正期から昭和初期に映画館で演奏された曲目と、可能な場合には演奏者に関するデータを集積した。 ③大正期から戦前までに音楽の各分野で活躍した人物(大森盛太郎『日本の洋楽』と内田晃一『日本のジャズ史』で確認)の名前と、船の楽士として米国入国記録に残る人物名と照合し、船の楽士を経験した人々が上陸後どのような活動を展開したかを跡付けた。それに加えて、映画館週報に表れている音楽家や音楽団体の名前を照合した。その結果、100名以上の人物について二つ以上の経歴(出身校や活動の場)を確認することができ、当時の音楽家の経歴には多様なパターンがあることを確認できた。また、特に船の楽士を経験した人々に注目すると、彼らの一部は船を下りた後に国内でグループを形成し、各分野でリーダー的な役割を果たしたことが判明した。 ④上記の②と③で得られた知見を、平成29年3月末に国際音楽学会IMS Tokyo 2017において口頭発表(英語)した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①演奏記録のデータ集積は、映画館における演奏記録を除いておおむね終了した。 ②これまで集積した演奏データと出版・レコード発売データを比較検討するために、作曲家と作品名の表記法統一を進めているが、これには思ったより時間がかかっている。そのため、これまで集積したデータの比較考察まで行うことができなかった。 ③その反面、早稲田大学演劇博物館の膨大な映画館週報コレクションを基に当時の演奏データを確認する作業の中で、演奏者と演奏団体に関する情報を思いのほか多く得ることができ、これによって、当時の演奏家どうしのつながりや変遷、さらには船の楽士を経験した人々が果たした役割をより鮮明に知ることができた。 ④IMS Tokyo 2017では、船の楽士の経験者を中心として、洋楽受容の経過を資料で跡付けるという形で口頭発表を行った。現存資料を視覚的に提示することにより、洋楽受容に詳しくない聞き手にとっても理解しやすい形で、船の楽士が果たした役割の重要性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は研究の最終年度として以下のように研究を進める予定である。 ①映画館週報に見られる演奏データの集積(主に国立近代美術館フィルムセンター所蔵) ②これまでに得られた演奏データと出版・レコード販売データを比較できるように表記法統一を完成させ、データの比較考察を行う。その際、必ずしも全データを一括比較するのではなく、メディアごと、あるいは演奏の場の性格(船、学校、劇場、等)により分類した上で比較し、それぞれのメディアまたは演奏の場による違いと共通性を浮き彫りにする。 ③大正期から昭和初期にかけて活躍した音楽家の動きを整理し、その中で船の楽士がどのような役割を果たしたのか、映画館の音楽と管弦楽団創設の関係、いわゆる「たたき上げ」の音楽家たちとドイツやフランスに留学した作曲家・個人演奏家との違い等について考察を行う。 ④②と③で得られた研究成果の一部を日本音楽学会全国大会(平成29年10月末)において口頭発表する。
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