研究実績の概要 |
教育心理学では,学習者に規則や概念を発見させる「発見学習」と,教師がそれらを直接的に教授する「受容学習」が代表的な教授法として知られてきたが,それぞれの限界が明らかにされたことで,両者を統合しその限界を乗り越える試みの必要性が指摘されている(Lee & Anderson, 2013)。その試みの1つである「教えて考えさせる授業」は,授業冒頭で教師から基本的な事項を分かりやすく教え(「教師からの説明」),学習者同士が学んだことを教えあう「理解確認」により,共通の土台となる知識を獲得させる。次に,更に高度な内容について発見的で協同的な学習を行い(「理解深化」)。最後の「自己評価」で,自己の学習をふりかえらせる(市川, 2004)。 本研究では,第一に,公立小学校において,教えて考えさせる授業を軸とした,2年間の算数の授業改善の取り組みを実施し,その効果を実証的に検討した。介入を通じて児童における知識の習得と活用が促されるとともに,効果的な学習方略の獲得も促進されたことが示された。加えて,教員に対して指導案を作成させる調査を行ったところ,1年目より2年目の方が効果的な働きかけを表す記述が高かったことが明らかとなった。この成果は『教育心理学研究』に掲載されている(深谷他,2018)。 また,2つ目のプロジェクトでは,教えて考えさせる授業の効果を実験的に検討した。実験では,理解確認の代わりに,理解深化の時間を長くとる群(統制群1)と,理解確認と自己評価の代わりに,教師からの説明の前に基本的事項について発見的学習を行う群(統制群2)を設けた。5日間の学習講座に参加した中学生を対象に,理科の授業を実施した。事後テストの結果,基本事項,発展事項のいずれにおいても,教えて考えさせる授業群が他2群を上回る学習成績を示した。この研究については,論文化を終え,まもなく国際誌への投稿を予定している。
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