研究課題/領域番号 |
15K13560
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武井 康子 東京大学, 地震研究所, 教授 (30323653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非弾性 / 転位 / 多結晶体 / 地震波減衰 |
研究実績の概要 |
昨年度、転位クリープ下で変形させた試料のヤング率が変形前に比べて有意に低下するという結果を強制振動実験から得た。強制振動実験の最高周波数は100Hzであるが、この周波数でも有意なヤング率の低下があり、それ以下の周波数にはあまり大きな減衰の増大が見られなかった。このことから、非弾性の影響は100Hz以上に卓越することがわかる。そこで、転位による非弾性緩和の時間スケールを制約するため、超音波帯域での実験を行った。転位クリープ条件下(温度50度C、封圧0.8MPa, 差応力1.9MPa)で変形させた試料のヤング率を中心周波数が1MHzの超音波を用いて測定した.また、比較のため、変形前の資料のヤング率も同様の方法で測定した。その結果,1MHzでは変形前後でヤング率が変化せず,どちらも既存の研究で測定されている非緩和ヤング率に一致することが分かった.この結果から,本研究の多結晶体試料では,転位が引き起こす非弾性緩和の大部分は100-1MHzの間の帯域に存在していることが明らかとなった.この時間スケールは粒界による非弾性に比べて有意に短かい.この実験から、転位による非弾性のタイムスケールを制約でき、そのメカニズム解明に一歩近づけたと言える。 また、昨年度のデータで、実験中に転位の緩和が見られることから、非弾性測定中の非弾性は転位クリープ下のものとは必ずしも言えないことがわかった。そこで今年度は、転位クリープ下でヤング率を測定する実験の計画を新たに練り、来年度実験を実施すべく設計等の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、本試料が転位クリープすることを確認できたことと、転位クリープ後の試料は非弾性が促進されていることを確認できたことは大きな成果である。しかし、転位が非弾性に与える影響については、ヤング率による確認のみであり、ヤング率測定の難しさを考慮すると、本当に実体のある変化を捉えているのか、全く不安がないわけではない。そこで、超音波帯域の独立な実験から減衰の増大を捉えることを試みたが、超音波帯域は時定数が短すぎるという結果であった。また、転位の回復が予想外に早く、それを捕まえたこと自体大きな成果ではあるものの、回復前の物性を測定するためには転位クリープ下でのその場測定が重要であることを認識する結果となった。そこで、これら二つの懸案を解決出来る新たな方向性として、転位クリープ下でのヤング率のその場測定を行って転位クリープの影響を直接観察するという新たな実験アイディアが生まれ、現在その実験を準備中である。このように、計画が進んだことで気づいた問題点から、新たな方向性も生まれており、概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、得られた実験結果や問題点の検討から、転位クリープ下でのヤング率の測定を行って転位クリープの影響をその場観察するという新たな実験アイディアが生まれており、この実験の準備に取り組んでいる。この実験から、既に得ている強制振動実験のデータをどのように取り扱うべきかについてある程度の答えが得られるため、それを踏まえて、新たな強制振動実験とデータ解析を行う。また、成果を論文にまとめて投票することも最終年度の重要課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
転位クリープ下でのヤング率の測定が新たに必要になったため、この実験に必要なジグや機器の購入が必要になった。一方、今年度実施した超音波実験は、既存の設備でほぼ間に合わせることができ、実験費用を抑えることができた。そこで、その一部を、新たな実験に必要な物品の購入に充てることとし、次年度使用額となった。また、国際学会に参加して実験データを議論することを検討していたが、次年度の5月に日本で行われるJpGU-AGUに地震波減衰のセッションを開き、関係する研究者を招待し、また研究所に呼んで日本で詳細に議論を行うことにした。このため、その旅費と滞在費を次年度の使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
転位クリープ下でのヤング率のその場測定を行うために、封圧下での一軸圧縮セルに高精度レーザー変位計を取り付ける。現在設計中であるが、そのジグと計測に必要な物品の購入に充てる。また、次年度の5月に日本で行われるJpGU-AGUに地震波減衰のセッションを開き、転位を含む岩石の非弾性データを最近論文公表したANUのIan Jackson氏を招待して議論を行うとともに、学会後、我々の実験室にてさらに議論を行う。このための旅費と滞在費としてさらに使用する。
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