本研究の目的は、核スピン偏極率を向上させることができる光励起三重項電子スピンを用いた動的核偏極法(トリプレットDNP)と化学分析に用いられるNMRシステムを融合させ、汎用的な高感度NMR分光法として確立させることである。偏極源探索を目的とした今年度の研究成果は、以下の3点である。 (1)ペンタセン誘導体の時間分解ESR測定を行った。トリプレットDNPでは偏極源として使用することができるのはペンタセンのみであった。しかし、この分子はほぼすべてのNMR溶媒に対して難溶で、研究対象物質を含む測定試料中へ混ぜ込むことができない。そこで、溶解性に優れ、偏極源としも有望な特性を持つ新規分子の探索を行った。本研究では、15種類のペンタセン誘導体に対し、時間分解ESR測定を行い、トリプレット状態の寿命などの評価を行った。ESR信号拾得の可否と可視光吸収スペクトルの間に相関がみられ、量子化学計算を用いた考察を行った。 (2)9 GHz 時間分解ESRシステムの構築を行った。誘電体共振器の設計、制御プログラムの開発などを行った。データ解析にwavelet解析を取り入れ、一般的なフーリエ解析よりノイズ除去に有効なデジタルフィルタを実装した。 (3)新光源を用いてテトラセンの時間分解ESR信号を拾得した。フラッシュランプを導入したことにより、励起波長が500nm以下の分子についても時間分解ESR測定が可能となり、ペンタセン以外の分子でもトリプレットDNPが可能であることを示した。
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