研究課題
今年度は、筋に関連するMSM以外の計測値と皮質骨の厚さとの相関関係を調査した。材料と方法:オトナメスのカニクイザル9頭(年齢:12.9~18.1才、体重2.7~4.6kg、佐賀大学医学部保管、10%ホルマリン浸漬標本)の左上腕骨を対象にした。これらの個体は生前、個別ケージの同一環境で飼育されていた。三角筋および肩甲下筋における筋重量(筋力と相関)、筋線維長(筋の収縮速度能と相関)、およびそれぞれの筋付着部皮質骨の厚さを算出した。筋重量は電子天秤を用いて計測した。筋線維長はデジタルノギスを用いて各筋でランダムに6か所を計測し、その平均値を用いた。皮質骨の厚さは、CT撮像後にPC内で三次元再構築した上腕骨において、筋付着部における表面積と体積より算出した(体積/表面積)。求めた皮質骨の厚さと体重、筋重量、筋線維長それぞれが相関するのか否か明らかにするため、常用対数に変換後、回帰分析を行った。結果:三角筋付着部の皮質骨の厚さは、筋重量や筋線維長と統計学的有意性基準(p<0.05)での相関は認められなかった。有意性基準(p)が0.05以上であるが、体重とはやや強い正の相関を見せた。肩甲下筋付着部の皮質骨の厚さは、どの計測値(体重、筋重量、筋線維長)とも統計学的有意性基準(p<0.05)での相関は認められなかった。考察:皮質骨の厚さは筋力や筋収縮能を示す値との相関は認められなかった。このことから、年齢の近いオトナの同性内では、皮質骨の厚さを計測しても、筋に関連した値を推定することは難しいことが分かった。ただし、三角筋付着部周辺(骨幹部)における皮質骨の厚さは、体重推定に用いることができる可能性が示唆された。また、同性、同年齢層、同環境飼育の複数個体を対象にしたとき、MSMを用いた段階的な点数付けによって、骨表面の粗面や結節を定量的に評価し個体差を見出すことは難しいことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は故障したCTの修理を行ったことで、骨内部構造に関連したデータを取得することができ、前年度の遅れを取り戻せた。また予備的な分析ではあるが、同性、同年齢層、同環境飼育の複数個体を対象とした標本をもちいることによって、MSMの評価の妥当性について検討し、MSMのみならずMSMに代わり得る新たな指標を探るきっかけを見出すことができた。
マカクザルの骨標本において骨表面の粗面・結節などについてMSM を段階的に点数付けする代わりとなるような新たな指標値を探る。上腕骨における三角筋粗面では、粗面中央部の前方、及び後方への突出程度を定量的に評価しMSMに変わり得るものかどうかを検討する。その他の筋の付着部に関しても順次、MSM代替指標を探っていく。平成28年度に得られた筋重量と筋線維長の値、そして両者から計算されたPCSA値、三次元再構築データから得た皮質骨厚、そしてMSMに代わりとなる指標値における互いの相関関係を探る予定である。これらの相関について、マカクザル標本の前肢および後肢における筋について、計測値データの蓄積を図る。また、可能であれば、ヒトの上・下肢骨を対象に、筋重量、筋線維長、PCSA値、皮質骨厚、MSM代替指標を求めていく。データを蓄積させることで骨復元データベースを作成し、古人骨研究と本研究の比較分析から、古人骨の生業形態の新たな復元を試みる。MSMの段階的評価だけによる生業復元と、筋重量、筋線維長、PCSA値、皮質骨厚、MSM代替指標を考慮に入れた生業復元は一致するのか、部位によって違いが現れるのか、もし違いがあるとしたらどのような計測値に違いが見られるのか、上肢と下肢で整合性の取れた復元が可能かどうか比較検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Journal of Human Evolution
巻: 94 ページ: 117-125
10.1016/j.jhevol.2016.03.006
American Journal of Physical Anthropology
巻: 160 ページ: 469-482
10.1002/ajpa.22984