熱帯泥炭湿地は、残された貴重な土地資源のひとつであるが、排水を伴う農地化によって泥炭として蓄積されてきた大量の有機炭素の無機化が促進されることが懸念されている。しかしながら、ヤシ栽培下土壌で有機炭素分解速度の変化が見られなかったこと等から、分解されにくい有機物も多く存在する可能性が推察された。そこで、熱帯泥炭が恒常的に難分解性炭素を含んでいることを確認することを目的として、マレーシア・サラワク州の各種森林、油ヤシプランテーション、サゴヤシ栽培圃場の泥炭土壌について、難分解性腐植物質、ブラックカーボン、光分解耐性有機物、生分解耐性有機物の評価を行った。難分解性腐植物質含量は、フミン酸の黒色度の違いに対応した細画分への分画に基づいて評価したが、黒色度が高く、分解されにくいと推定でされる画分は検出されなかった。ブラックカーボン含量は、硝酸分解によってブラックカーボンから生成するベンゼンポリカルボン酸を定量することで推定した。その結果、いずれのタイプの森林土壌においても、ブラックカーボン含量は全炭素の1%未満にすぎないことが示された。また、太陽光シミュレーターを用いた光分解耐性試験では、有機炭素の~22%が失われ、森林植生間および土地利用間で分解率に差が認められた。しかしながら、最も分解が進んだ試料においても照射前後の13C NMRスペクトルに有意な変化はなく、光分解耐性が異なる有機炭素の存在は確認できなかった。微生物による分解速度は、温度とpHの調整により2~5倍増大した。現在、13C NMRを用いて生分解性に対する耐性と化学構造との関係を解析中である。
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