気分障害と認知症の行動・心理症状に対して、情報環境、特に音情報の適正化をはかることによってストレスを軽減し、従来の薬物治療を補完しつつその効果を飛躍的に高める新しい非薬物治療法として音響療法(ハイパーソニック・セラピー)を開発し、その臨床研究を実施している。本研究では、げっ歯類モデル動物を用いて、複雑に変化する超高周波振動情報が豊富に含まれる音情報が気分障害治療効果と予防効果を行動試験によって検討するとともに、脳内神経伝達物質の計測によって、音響療法の基盤となる作用機序の生物学的解明を目的とする研究を行った。 音環境の厳密な比較のため、高度な音遮蔽条件をもちつつ、それ以外の環境要因はできるだけ通常と同じになるように、特注の防音飼育箱を導入し飼育環境を構築した。また、超高周波空気振動を含む音を飼育ケージ内の動物に呈示するため、特別仕様の呈示装置を構築した。また、複数の行動試験を組み合わせて総合的に評価する実験系を構築するとともに、日常行動をビデオで記録して観察できるシステムを構築した。上記の実験系を用いて、音響情報呈示がマウスの行動量や自然寿命に対する影響を評価する実験を実施した。その結果、熱帯雨林環境音の呈示下で飼育したマウスは、通常の暗騒音条件下で飼育したマウスより、寿命が統計的有意に延長することが示され、自発活動量も有意に多かった。しかし、寿命と自発活動量の間には、有意な相関はなかった。体重は群間で有意な差はなかった。以上から、熱帯雨林環境音を呈示した飼育環境は、マウスの自然寿命を延長させる効果をもつこと、自発活動の増加が寿命延長の主要因ではない可能性が高いことを示唆するものと考えられる。
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