研究課題
本研究は癌幹細胞の生体内ニッチ制御分子の基礎解析と、その臨床応用を目指した特異的治療開発という二つの視点を特徴とする。膵腫瘍特異的な癌抑制遺伝子Xがコードする蛋白は特異的ヒストン・シャペロン分子であり、ヒストンH3と複合体を形成してLys9メチル化を促すことが知られているが(H3K9me3)、幹細胞性制御における意義は不明である。本研究ではゲノム編集法(CRISPR/Cas9)によって、癌抑制遺伝子Xをノックアウト(KO)したヒト膵腫瘍細胞を作成した。X-KOヒト膵腫瘍細胞はスフェア形成能など幹細胞性を獲得し、NOD-SCIDマウスにおいて高い造腫瘍性を呈することが明らかになった。H3K9me3経路は遺伝子発現を抑制することが知られている。マイクロアレイ解析によって遺伝子発現抑制群を抽出して、X蛋白に対する免疫沈降法(chromatin immunoprecipitation; ChIP)を用いて直接転写制御される13標的遺伝子を同定した。さらにH3K9me3に対するChIP解析によって5遺伝子を抽出し、siRNA解析によってX-KO膵腫瘍細胞のスフェア形成能を制御する1遺伝子を同定した。この遺伝子Yは間葉性幹細胞や癌細胞で高発現すること、酸化ストレスや抗癌剤への抵抗性を促進することが報告されている。膵腫瘍臨床検体を用いた解析では、X蛋白低発現症例は有意にKi67指数が高く、その33%に遺伝子変異を検出した。さらにX低発現かつY高発現症例では有意に再発率が高いことが証明された(p=0.018)。本研究によって、癌抑制遺伝子Xがエピゲノム修飾により幹細胞性遺伝子Yを直接制御する新規癌化メカニズムが明らかとなり、臨床診断に有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。幹細胞性遺伝子Yは腫瘍特異的に発現しており、治療標的としても臨床応用への展開が期待できる画期的な成果が得られた。
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Molecular Cancer Therapeutics
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