研究課題
口腔外科領域で極めて多い疾患の一つが顎関節症である。顎関節症は様々な原因で発症するが、共通してみられる病理所見が滑膜細胞の過増殖とそれに伴う軟骨変性、骨破壊、線維化である。同様の所見がみられる関節リュウマチの原因遺伝子として、Nakajimaらのグループにより小胞体膜局在型E3ユビキチンリガーゼSynoviolin/HRD1が同定された。そのメカニズムとして、HRD1の過剰発現およびそれに伴う活性化が、滑膜細胞の過増殖に繋がることが明らかにされている。従って、HRD1の活性化メカニズムを明らかにすることは、滑膜細胞の増殖制御を可能にすると考えられ、顎関節症の克服に向けた全く新たな治療法の確立に繋がると期待される。顎関節症に共通してみられる病理所見が滑膜細胞の過増殖と活性化である。この滑膜細胞過増殖の原因遺伝子として、小胞体品質管理に関わるE3ユビキチンリガーゼSynoviolin/HRD1が同定されている。一方、申請者はこれまで小胞体品質管理機構に関する研究に取り組んでおり、その過程でHRD1がユビキチン様タンパク質NEDD8による翻訳後修飾を受け、その活性化が制御されることを示唆する知見を得ている。そこで本研究では、HRD1の翻訳後修飾NEDD化による活性制御メカニズムを明らかにすることで、顎関節症の新規治療法の開発に繋げることを目的として研究を進めた。
2: おおむね順調に進展している
下記項目について実験を進め一定の成果を得たため。・HRD1は6回幕貫通タンパク質で、N末端とC末端が細胞質側を向き、E3活性中心であるRing領域はC末端に位置する。この領域を含め、Ub化、NEDD化されうるリジン(K)残基はわずか5ヶ所である。そこで、これらのアミノ酸変異を全ての組み合わせで作製し、HEK293細胞を用いた過剰発現系でUb化とNEDD化を検証した。・Ub化がHRD1のタンパク質安定性(あるいは分解)に関与している可能性を[35S]-Metパルスラベルにより検討する。また、E3活性への影響については、イヌ膵臓由来ミクロゾームを用いた系で、in vitroでHRD1のE3活性を測定する。具体的には、in vitro translationによりHRD1をミクロソーム膜上に、ERAD基質をミクロゾーム内腔に合成した。・HEK293細胞を用いた過剰発現系で、Derlin-1-C末端とCSN3のそれぞれの結合最小領域を同定する。マッピングされた領域ペプチドを発現させ、Derlin-1-CSN3結合の競合的阻害による、脱NEDD化阻害によるHRD1Ubへの影響を検証した。
平成28年度は、下記項目に関する検討を予定している。・Derlin-1-CSN3結合ペプチドcTgマウス解析:関節リュウマチと肝硬変において、滑膜細胞や線維芽細胞におけるHRD1の活性亢進が滑膜細胞と慢性肝炎の線維化を導いていることが報告されている。すなわち、両細胞におけるHRD1のUb化とNEDD化を標的とした活性制御を可能にすることは、疾患克服の分子標的の発見に繋がる。そこで、結合阻害ペプチドを組織特異的に発現するcTgマウスの表現系を観察する。また、Derlin-1-CSN3結合ペプチドcTgマウスおよびHRD1KOマウスを用いて、関節腔への炎症惹起による顎関節症モデル実験を行い病理学・生化学的に検証する。・HRD1のUb化とNEDD化E3スクリーニング:H27年度に構築したHRD1UbとHRD1NEDDを定量化する系を用いてHRD1のUb化とNEDD化に関与するE3を同定し、その機能解析を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
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