理学療法士による移乗介助のデモンストレーションを見学する方法(以下,デモ見学法)と要介助者の機能障害像を模倣した理学療法士を相手に移乗介助を体験する方法(以下,模倣要介助者支援体験法)が要介助者の能力を引き出せるようになるための有効な手法となりうるか調査した.同意の得られた障害のない1名の男性に対しダイヤルロック付き股装具を用いて,股関節屈曲の可動範囲を90°に制限し要介助者役を設定した.要介助者が独力で椅子からの起立ができないことを確認した.介助者は本調査に同意の得られた療養型医療施設で働く看護・介護職員45名とした.職業経験年数を基に層別ランダム化にて対照群,デモ見学法群,模倣要介助者支援体験法群の3群に振り分けた.計測項目は要介助者の離殿時における下肢荷重量とし,平成27年度に作製した装置を用いて計測を実施した.各群ともに2回の計測を行い,デモ見学法と模倣要介助者支援体験法では,それぞれの介入を1回目と2回目の計測の間に挟んだ.1回目の計測値と2回目の計測値の差は,対照群で平均1.2±7.1 kg,デモ見学法群で平均6.3±8.1kg,模倣要介助者支援体験法群で平均10.3±10.6kgであった.対照群と比較して模倣要介助者支援体験法群で有意に下肢荷重量差の増加を認めた. 続いて,要介助者の下肢荷重量と介助者の腰部負担の関係について調査した.介助者は本調査に同意の得られた障害のない男性4名で,いずれも病院実習で移乗介助経験のある者とした.下肢荷重量の計測方法は前実験と同様とし,筋電図の計測を介助者の第3腰椎レベルの腰部脊柱起立筋走行部で行った.1回目と2回目の計測間に模倣要介助者支援体験法による介入を行った.結果,模倣要介助者支援体験後の計測で4名とも要介助者の下肢荷重量を増加させ,自身の腰部筋放電量が減少した.
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