本研究の目的は、大域的な視覚情報処理が、生後どのように発達するのか、どのようにしてヒトで特に進化してきたのかについて、ヒトの乳児と成人、チンパンジーを対象とした比較認知発達の視点から検討することであった。最終年度である本年度は、1年目と2年目に得られた成果を国内の学会や研究会等で発表すると同時に、学術論文にまとめて国際学術誌上で公刊した。また、ヒトの幼児を対象として、アンサンブル知覚の検討を試みた。 本研究の結果、大域的な視覚情報処理の1つである、複数の対象の大きさの「平均」を抽出するアンサンブル知覚のメカニズムの一部は、ヒトだけでなくチンパンジーにも共有されていることが明らかになった。近年、ヒトでは、大きさ以外にも様々な属性においてアンサンブル知覚が生じることが示されてきたが、ヒト以外の動物でアンサンブル知覚が生じることを示したのは本研究が初めてであった。これまでの比較認知研究から、大域的な視覚情報処理については、チンパンジーよりもヒトの方が優れている可能性が示されてきたが、アンサンブル知覚は、チンパンジーにおいても生じることが確認された。さらに、大きさ以外の属性として、複数の対象の食物の鮮度についても瞬時に平均を知覚できる可能性が示唆された。 今後の課題として、平均を知覚できるか否かのみならず、平均を知覚できる対象の数のような、アンサンブル知覚の能力に関する量的な比較についても検討する必要がある。また、本研究では十分に検討できなかった、ヒトのアンサンブル知覚の能力の発達過程についても明らかにする必要がある。
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