研究課題/領域番号 |
15K16267
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
河野 和宏 関西大学, 社会安全学部, 准教授 (60581238)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 情報セキュリティ / 情報モラル / 情報教育 / GBS理論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,習熟度別・年代別学習システムの開発に向けて,(1)小中学生に求められる情報セキュリティの内容の精査,(2)その分析内容に基づき,GBS理論を用いた教育教材の設計を試みた. (1)については,小中学校の道徳の教科書を用いて,小中学生に求められる情報モラルの内容を分析した.これは,小中学生段階ではモラルに起因する問題のほうが,社会的影響が大きいと判断したためである.道徳に関する教科書(計3社)を分析した結果,小学生段階では道徳全体に関わる内容が多く,中学生段階では携帯端末を所有した際のモラルに関する内容が増加するなど,違いはいくつか見られるものの,どの教科書・年代でも可能な限り小中学生の身の回りに関わる内容で書かれていることが共通点として得られた.具体的には,電子メール,携帯端末,ネットワーク上の書き込みといった,普段から使用しているサービス・端末が日常生活や対人関係に与える影響を重要視していることがわかった. (2)については,「失敗により学ぶ」という経験を疑似的に学習することが可能な教材を作成する教育理論であるGBS理論に基づき,(1)の内容を反映させた情報モラル教材を設計した.(1)の分析より,小中学生の身の回りの内容を重要視していることから,小学生段階では,携帯端末の使用方法,相手を意識したコミュニケーションを学習させることを目的とし,情報モラル(コミュニケーション,使用時のマナー,日常生活を考慮した使用法)を理解できる内容で設計した.中学生に対しては,現実により近づけるため,スマートフォン端末やインターネットに焦点をあて,それらの利便性と危険性,ネットワーク(SNS)のマナーを学習できるよう設計した.また,グループワーク形式で実行できるよう設計していること,学校だけでなく家庭(親)も含めた学習ができるようにしている点も,本教材の特徴的な点としてあげられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では,平成27年度においては,1)教科書を用いた小中学生の情報セキュリティに対する教育内容の分析,2)GBS理論を応用した習熟度別・年代別情報セキュリティ教育の設計(特に年代別情報セキュリティ教育の設計)の実施を予定していた.研究実績の概要に示した通り,本年度は両方とも実施しており,これらの研究成果は,電子情報通信学会2016年総合大会にて発表していることからも,おおむね順調に進展しているといえる. 交付申請書に記した平成27年度の実施予定の内容のうち,未着手もしくは実施中の内容は,中学における必修科目の一つである「技術・家庭」における,情報技術に対する記載内容の分析,ホームページ・書籍を用いた分析,習熟度別情報セキュリティ教育の設計の3つである.ただし,「技術・家庭」やホームページ・書籍の分析については,研究をすすめるうちに情報モラルのほうが重要であると判断し,その分析を優先させたためであり,上記の通り情報モラルの観点からは分析済みのことから,分析自体は十分に進展しているといえる.また,習熟度別情報セキュリティ教育の設計についても,平成27年度は年代別の設計を優先する予定であったことから,進捗自体に遅れはほとんどないといえる. その他,「ニュースメディア」という新しい観点からも情報セキュリティの意識向上に向けた検討を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記した通り,平成27年度は概ね予定通り進展したものの,「技術・家庭」を用いた分析など,一部未着手・実施中の状態である.そこで,平成28年度においては,これらの課題に着手すると同時に,交付申請書に記した通り,習熟度・年代の両方の立場からの情報セキュリティ教育教材の設計と評価,その教育を実現するためのツールの開発に着手する. 習熟度別の教育とは,ユーザの情報セキュリティの理解度に着目し,ユーザごとに適切な教育内容を提示することを考えている.例えばある一つのインシデントが発生し,その原因となったユーザに教育するとしても,「悪意はなかったが行ってはいけないことと最初から知らなかった」のか,「悪意はないがその方法が禁止であることを知らなかった」では,教育すべき内容が大きく異なる.そこで,習熟度別に教育すべき内容を分析した後,習熟度の基準に応じて適切な教育内容が実施できるよう,教材を設計する. 開発するツールは,1)3Dによる擬似実環境を構築し,自身で行動可能な体験型RPG,2)実例に基づくリスク体験が可能なツールであり,これらを用いてよりユーザの現実に即した教育を提供する予定である.なお,前者は,実際の学校やオフィスを模した3D環境を構築する予定であり,パソコン上で動作することを想定しているが,後者は,アナログゲームなど,必ずしもパソコン上での動作を想定してはいない.これは,ユーザによってはパソコンという敷居が高い情報機器を用いて学習を始めるのではなく,ボードゲームなどの身近なゲームを用いて情報セキュリティや情報モラルを体験することにより,ユーザにとってより学習しやすい環境を提供できると想定している. また,可能であれば,最終年度に実施予定の,熱望方略を用いた継続的学習の枠組みの構築に向けて,熱望方略を用いた教育内容の実施例やその策定に向けての基礎を固める予定である.
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