今日、学校教育課題の複雑化・多様化が指摘されており、それに対応できる「学び続ける教師」が求められている。研究においても、授業とは教師が予め計画していたとしても予期しないことが起こり得るのであり、授業内の偶発性をうまくコントロールできるかどうかが授業の良しあしを規定するという、教師の省察的実践の重要性が認識されている。こうした教育実践の難しさ(複雑性)は、体育授業においても例外ではなく、特に体育は、グラウンドや体育館など大きな空間で秩序を形成してコントロールしなければ学習が成り立たないことから、他教科よりも複雑性が高いと考えられる。 以上の背景から、本研究の目的は、体育授業における教師の省察的実践の特質を解明することであった。具体的には、①理論的検討を踏まえ、②体育の授業改善に積極的に取り組むある小学校教師の体育授業づくり・実施の参与観察、また、③組織的に体育授業の改善に取り組む小学校の体育授業に関するインタビュー及び参与観察にとりくんだ。以下、②③の内容について記述する。 ②では、次の点を明らかにした。教師は、体育授業づくりを行う上で、1.子どもの技能に対する課題認識と授業のねらい結合させていること、その際、2.子どもの学びを入念に予期し、それを踏まえ創意工夫を行っていること、そして、その3.創意工夫も教師の「こだわり」と表現される挑戦性を組み込み授業改善を行っていることである。 ③で明らかにしたのは1.そもそも体育学において蓄積されてきた体育授業改善に関する知が、学校現場に普及していないことである。体育授業研究に取り組み理論的に示されている知に触れることで、体育授業における複雑性は低減することができる。そして、2.そうした体育授業に関する省察で得た知は、他の教育活動においても活用され、他の活動の複雑性を低減させる可能性がある。
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