研究課題/領域番号 |
15K16691
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研究機関 | 奈良学園大学 |
研究代表者 |
阿尾 あすか 奈良学園大学, 人間教育学部, 専任講師 (30523360)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 伏見院 / 和歌表現 / 漢文学摂取 / 王朝文学 / 鎌倉時代後期の宮廷 |
研究実績の概要 |
伏見院の和歌表現の検討を通して、伏見院宮廷における王朝文化の継承の様相と、鎌倉時代後期の文化との同時代性とについて検討した。 平成29年4月『国語国文』86巻4号掲載の「伏見院の和歌題と漢文学」では、のちの京極派歌壇にも影響を与えたとされる伏見院の和歌における漢文学摂取について、再検討を行った。これまで歌風の独自性が強調され、その要因として和歌表現における漢文学摂取が指摘されてきた。当該論文では、伏見院の和歌題における漢文学摂取の検討を通して、伏見院が摂取した漢文学が『千載佳句』などの王朝時代の佳句集に多く取られるもので特殊なものではないこと、同時代の歌壇でもこうした漢文学から和歌題を摂取することが多く行われたことを指摘し、伏見院宮廷の摂取した漢文学も王朝文学の系譜上にあるものであること、またこの傾向は同時代の宮廷に共通することを明らかにした。京極派歌風の特異性は、漢文学摂取に直接の原因がある訳ではないということが言える。 また、平成29年12月の和歌文学会関西例会での発表、「伏見院の和歌における強調の句表現について」において、伏見院の和歌の句表現での特徴的な言いまわしなどに、漢文訓読調の影響がみられることを指摘した。その歌風の特異性は歌材や歌語の使用に現れていると見るよりは、ことばの言いまわしや調べによるところが大きいと考えられる。伏見院宮廷の文芸活動の独自性は、漢文学を積極的に摂取したことにあるのではなく、その摂取の仕方にあったとみるべきであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究において、伏見院の和歌表現の検討から明らかとなった王朝文化継承の様相を、体系化してこなかったこともあり、より丁寧な検討が必要となっている。伏見院の和歌表現から適切な用例を抽出し、検討するのに時間を要した。計画当初、伏見院宮廷における絵巻物や料紙装飾の製作における、王朝文化継承の様相についても検討する予定であった。現在、調査に着手しつつある状況であるため、「やや遅れている」との自己評価となった。 また、伏見院に関係する古筆資料についての調査を行っているが、時間的な制約などから調査が行き届かなかったこともあり、論考にまとめるまでには至らなかった。子供の小学校入学に伴って養育環境の変化が大きかったことが要因である。今年度は養育環境も安定しているため、調査を進めて論考にまとめたい。
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今後の研究の推進方策 |
申請当初の計画に基づき、今年度は伏見院の古筆資料の検討および京極派和歌と伏見院宮廷における絵巻物や料紙装飾の製作との関わりを中心に行う。前者についてはすでに堀川切についての調査を進めており、今年度も引き続き調査を行う。また、京極派和歌と絵巻物や料紙装飾の製作との関わりについては、岩手県立短期大学講師の赤澤真理氏の協力を得て、調査を行うこととする。同氏は、絵巻物における建築の描かれ方を研究しており、美術史の観点からも研究を行っている。同氏の協力を得て、美術史の最新の研究成果についても踏まえながら研究を進める。 一方で、本研究課題の成果を体系的にまとめることを優先するため、研究の進捗状況によって申請当初の計画にあった草稿段階の和歌資料の検討については変更することも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の遅れや家庭の事情により、資料調査や研究に時間を割くことができず、当初の研究計画と比べ研究の進捗状況が遅れることとなった。翌年度では、資料調査で関東や九州にも出張するため、その旅費として、また、美術関係の文献資料の購入にあてる物品費として、助成金を使用する予定である。
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