研究課題/領域番号 |
15K16710
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安達 大輔 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (70751121)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メディア / 身体 / 言語 / ロシア語 / ロシア文学 / ロシア / 文学史 / 19世紀 |
研究実績の概要 |
本年度の課題は、19世紀ロシアにおけるロマン主義以降の言語思想とその受容において、言葉の対象指示機能がどのように理解されていたかを整理することであった。 このテーマについてのまとまった研究は日本だけではなくロシア・欧米でもまだ行われていないため、まずヴィノグラードフやボリス・ガスパーロフらの研究を参照して当時の文法書・言語論の文献リストを作成した上で、ロシア国立図書館での調査を含めた資料収集を行った。資料収集については当初の予想を上回る成果があり、K・アクサーコフ、N・ネクラーソフ、ブスラーエフからポテブニャに至るまで、基本的な文献を収集することができた。ただし具体的な分析については申請時に予想されたとおり、今年度だけで終了することが不可能だったため、次年度以降も継続してゆく。 具体的な研究成果としては、論文「表を見ることから痕跡に耳を澄ますことへ:ゴーゴリの痕跡学」、ロシア語による国際学会報告「ゴーゴリ作品におけるロマン主義的愛のジェスチャー:主題と変奏」を発表した。以上と前年度の研究成果を併せると、19世紀前半のロマン主義文学における身振りの考察についてはほぼ完成段階に入りつつあると言える。また、ヴィゴツキーの伝記についての学会誌掲載書評を通じて、20世紀の言語学・心理学における身振り論についての研究を進めたが、これは三・四年目の研究を先取りするものである。 19世紀後半のリアリズムから象徴主義までの時期の文学作品の身振りについての研究は前年度からの継続課題となっていたが、今年度大幅に進展させることができた。研究成果は次年度以降発表してゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、19世紀ロシアの文学を言葉と身体の関係から再考することを目的として、言語がもつ身振り性という一貫したテーマに多様な角度から取り組む総合的な研究である。 ここまで、研究初年度に発表したカラムジンに関する論文、初年度および今年度に発表したゴーゴリに関する報告・論文によって、19世紀前半のロマン主義文学における身振りの考察についてはほぼ完成段階に入りつつある。 19世紀後半のリアリズムから象徴主義にかけての文学作品については、本研究で初めて本格的な研究対象としたこともあり、前年度からの継続課題となっていた。今年度はドストエフスキー・トルストイ・チェーホフを中心に研究を大幅に進展させることができた。現在は論文としてまとめている段階であり、研究成果を次年度以降発表してゆく。 申請時に今年度固有の目標として挙げていたのは、19世紀ロシアにおけるロマン主義以降の言語思想における身振りの位置づけを整理することであった。この課題については、資料収集の面で十分な成果があった。しかし具体的な分析はまだ端緒についたばかりであり、次年度以降継続的に研究してゆく必要がある。 このように本研究の現在までの進捗状況として、19世紀ロシア文学作品における身振りの考察は非常に順調に進展している。一方で本研究の目的・独自性は、分析にあたって文学作品だけではなく、言語思想や同時代のさまざまなメディアにおける身振り表現を視野に入れた総合的な研究を行うことにある。文学作品とその文脈分析を総合するこうした作業は非常に複雑かつ時間と労力が要求されるものであり、今後さらに発展させてゆく必要がある。ただしこの面でも初年度からの作業は順調に進んでいる。したがって、総合的には本研究は現在までおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、初年度からの継続課題となっている19世紀後半、リアリズムから象徴主義までの文学作品の身振りの分析について、次年度以降積極的に成果を発表してゆく。今年度の課題であった、19世紀ロシア・ロマン主義以降の言語思想における身振りの理解については、資料収集が完了した段階であり、次年度以降本格的な分析を開始・継続してゆく。その他の年度毎の研究推進方策は以下のとおりである。 平成29年度(研究三年目)は、バレエ・ダンス・演劇や写真・映画、さらに礼儀作法書などさまざまな同時代のメディアにおける身振り表現を参照して、19世紀ロシア文学・言語思想における言語の身振り性との比較を行う。最終年度(予定)の平成30年度(研究四年目)には、前年度までの研究成果をまとめるとともに、言語の身振り性をめぐるロシア以外の議論と比較する。研究後半(三・四年目)の課題についてはすでに初年度から予備的な作業を進めており、研究前半(一・二年目)の成果をきわめて円滑に接続できると予想される。以上のプロセスを踏まえた研究のまとめ段階では、一般的な理論的枠組の中で19世紀ロシア言語文化の特殊性と一般性を考察する。 研究計画を遂行するために次のような工夫を継続的に行う。 A. ロシアを中心とする国外図書館での資料調査 B. 国内外の①ロシア文学・文化研究の専門家②隣接諸領域の研究者との学術交流 C. 国際的な研究会への参加および組織 以上によって19世紀ロシアの文学を言葉と身体の関係から再考することで、近年の文学・文化研究で注目されている、言語を身体的な実践の場と見るアプローチに対して学術的貢献を行うとともに、身体を重視する言語文化をロシア独自のものとするロシア特殊論をより相対的な視点から見直す。
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