研究課題/領域番号 |
15K16710
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安達 大輔 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (70751121)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 身振り / メディア / 身体 / 言語 / 文学 / ロシア / 19世紀 / 表象 |
研究実績の概要 |
本研究では、初年度に19世紀ロシアの文学作品における身振りを分析し、二年目はロマン主義以降の言語思想における身振りを扱った。三年目は演劇とオペラの分野を中心に同時代のメディアにおける身振り表現を参照して、19世紀ロシア文学・言語思想における言語の身振り性との比較を行った。 四年目となる今年度は、まずこれまでの研究において積み残された継続課題の解決に努めた。そのなかでも、19世紀後半のリアリズムから象徴主義にかけての文学作品の分析、そして同時代のメディア(特に演劇・絵画)における身振り表現との比較の分野で最も大きな成果をあげることができた。以上について国内及び国際会議で日本語・英語・ロシア語による口頭発表7点を行い、現在報告に基づいた論文を4点執筆中である。研究二年目からの継続課題であったロマン主義以降の言語思想における身振りの役割については、モスクワ大学で行われた規範文法に関する国際会議で口頭発表1点を行い、報告に基づいた論文を1点執筆中である。この問題は今年度でも十分に解決されたとは言えないが、解決に向けての方法論を確立して共同研究のネットワークを構築することができたため、今後研究を発展させて行く上での基礎的な方法論・研究環境の整備は完了している。このように研究成果を理論的かつ総合的にまとめる作業に取り組む過程で、中国・ロシア・カナダの研究者と上海・モスクワ・札幌及び東京で国際シンポジウムを組織し、共同研究に発展させることができた。 今年度これまでの研究を包括的に見直し整理したことで、19世紀ロシア文学における言語と身振りの関係について総合的な考察を得ることができた。一方でより一般的な理論的枠組の中で19 世紀ロシア言語文化の特殊性と一般性を考察する作業についてはやや遅れが見られたので、今後の課題として取り組みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち、前年度までに、19世紀前半のロマン主義文学における身振りの考察は完了する一方、19世紀後半のリアリズムから象徴主義にかけての文学作品の分析が取り組むべき課題として残っていた。これに対して今年度は、①ロマン主義文学の身振りに関するこれまでの研究を19世紀の文学と絵画における表象というより広い文脈に位置づけた。②国内だけではなく国際的にも研究の少ない19世紀後半の劇作家オストロフスキイを発見し読解を進めた。これによって、ロマン主義からリアリズム、さらに象徴主義へという19世紀全体の文学潮流を統一的に把握することができるようになり、また文学・絵画・演劇のジャンルを横断した研究を行うことができた。 ロマン主義以降の言語思想の研究については前年度まで具体的な研究成果が発表されておらず、進展にやや遅れが見られていた。今年度はモスクワ大学で行われた規範文法に関する国際会議で口頭発表を行い、現在報告に基づいた論文を執筆中である。今年度も問題が十分に解決されたとは言えないが、今後研究を発展させて行く上での基礎的な方法論・研究環境を整備することができた。 以上の研究成果は日本語・英語・ロシア語で発表して、日本社会への研究成果の還元と国際的な情報発信をバランスよく行った。上海・モスクワ・札幌・東京で関連する国際シンポジウムを組織し、共同研究へと発展させることができた。 本研究は言語がもつ身振り性に多様な角度から取り組むものであるため、今年度はこれまでの研究を総合する作業に重点を置いた。これによって19世紀ロシアの文学を言葉と身体の関係から再考する本研究の目的は十分に達成することができた。一方でより一般的な理論的枠組の中で19 世紀ロシア言語文化の特殊性と一般性を考察する作業についてはやや遅れが見られ、今後の課題として残った。 以上から本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は19 世紀ロシアの文学を言葉と身体の関係から再考することを目的として、言語がもつ身振り性という一貫したテーマに多様な角度から取り組む総合的な研究である。今年度までに目的はほぼ達成されているが、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施(学会参加、論文投稿)を目的として、補助事業期間を延長する。 2019年4月1-3日にウクライナ・ポルタワで開催される国際学術実践会議『ゴーゴリ読解』に参加、報告「ゴーゴリとメロドラマ」を行う。ゴーゴリは19世紀ロシア文学における言語と身振りの関係について考える上で最重要作家の一人であるが、ポルタワは彼が青年期を過ごした場所であり出身地にも非常に近い。すでに14回を数える当地での会議に参加・報告した上で論文として発表することは、本研究の成果をより国際的に発信するために必要である。またこの国際学会への参加及び論文投稿によって、本研究と、本研究の継続・発展課題である2019年度開始予定の基盤研究(B)「ロシア・旧ソ連文化におけるメロドラマ的想像力の総合的研究」により連続性を持たせ、双方の研究成果をさらに大きなものにする効果がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施(学会参加、論文投稿)を目的として、補助事業期間を延長する。今年度未使用額100,000円については、2019年4月1-3日にウクライナ・ポルタワで開催される国際学術実践会議『ゴーゴリ読解』に参加、報告「ゴーゴリとメロドラマ」を行うための旅費として使用する。ゴーゴリは19世紀ロシア文学における言語と身振りの関係について考える上で最重要作家の一人であるが、ポルタワは彼が青年期を過ごした場所であり出身地にも非常に近い。すでに14回を数える当地での会議に参加・報告した上で論文として発表することは、本研究の成果をより国際的に発信するために必要である。
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