研究課題/領域番号 |
15K16881
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲田 宇大 (金宇大) 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (20748058)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 古墳時代 / 朝鮮三国時代 / 地域間交流 / 金工品 / 製作技術 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、主にこれまでの研究成果をまとめる作業に重点を置いた。平成27年度に提出した博士論文を基に、内容が不十分であった部分の追加調査を補完的に実施しつつ、各章の内容を修正・再構成し、書籍を刊行した(『金工品から読む古代朝鮮と倭―新しい地域関係史へ』京都大学学術出版会)。 上記書籍では、垂飾付耳飾と装飾付大刀の検討を二本柱とし、2部11章にわたって当該時期の日本列島と朝鮮半島各地の地域間交流について論じた。前半の垂飾付耳飾の分析では、朝鮮半島出土資料を網羅的かつ詳細に検討し、新羅、百済、大加耶の間で交わされた交流の具体的様相を明らかにした上で、日本列島で出土する垂飾付耳飾の製作地問題に切り込んだ。後半の装飾付大刀の検討でも、朝鮮半島および日本列島出土資料を悉皆的に取り扱い、製作技術の伝播という側面から工人移動の実状に言及しつつ、その意義を評価した。これらを総合して、当該時期の朝鮮半島南部諸国と倭の間で展開された交流がいかなる意図の下になされていたのかを考察した。 また、これまでの研究成果を収斂させる作業の一方で、資料調査を実施した資料のうち、未報告であったり、十分な情報が公開されていない資料を学界に再報告する「資料紹介」の作業にも並行して取り組んだ。全国の博物館や美術館が所蔵する資料の図化・撮影を継続的に実施し、和泉市久保惣記念美術館所蔵の伝釜山蓮山里出土大刀や、京都大学総合博物館所蔵の京都府穀塚古墳出土環頭大刀といったいくつかの資料については、所蔵機関が発行する紀要などの媒体に図面や所見を公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の大きな目標の一つに、前年度およびそれ以前から継続してきた資料調査およびその分析によって集めたデータをまとめ、学界に公表することを挙げていた。その点では、上述した書籍の刊行は、本年度における大きな成果といえる。上記書籍は、序章、終章を除いた9章のうち5章が新稿で、特にこれまで未発表であった垂飾付耳飾に関する研究成果をすべて公表することができた点が特筆される。 また、上記書籍をまとめていく過程で、新たな研究の着眼点や分析視点を多く見つけることができた。具体的には、平成29年度以降に取り組んでいく予定の、各種「朝鮮半島系」装飾付大刀の技術的特徴に関する予察や、古墳時代後期の古墳資料の実年代に関する検討視点などである。今年度、これまでの研究成果の整理が一つの区切りを迎えたが、来年度以降は、新しく得られた研究視角に基づき、さらに多元的に古墳・三国時代における地域間交流の実態解明を試みていく。 ところで、資料調査を実施した資料のうち、未報告であったり古い報告で十分な情報が知られていないものについて、作成した図面や近年の出土資料や研究成果を踏まえた所見を公表する「資料紹介」も、いくつか発表することができた。こうした作業は、今後の研究においてもコンスタントに取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
6世紀代の金工品、特に日本列島で出土する各種装飾付大刀を対象に検討を進める。装飾付大刀の中でも、把頭に環状の装飾部を設けた「環頭大刀」は、古墳時代中期以来、日本列島内で伝統的に採用されてきた大刀外装とは異なる、朝鮮半島から導入された外来系の意匠とされている。しかしこれまでの研究では、これらの環頭大刀が朝鮮半島から導入されたということは指摘されても、実際に朝鮮半島で出土した資料との比較検討が不十分で、その詳しい系譜についての検証が不十分であった。すでに「単龍・単鳳環頭大刀」など一部の環頭大刀の分析を始めているが、今年度以降、他種の環頭大刀についても詳細な分析を実施しようと考えている。 具体的に検討を予定しているのが、「三累環頭大刀」と「獅噛環頭大刀」である。前者は、C字形を三つ重ねたクローバー状の意匠を把頭に付した環頭大刀で、朝鮮半島でも新羅に出土が集中することで知られている。そのため、日本列島でこれが出土すると、ただちに「新羅系」と判断され、新羅との関係を論じる根拠として言及される。しかし、日本列島出土の三累環頭大刀は、朝鮮半島出土例と比べると製作技術面において様々な相違点が認められる。来年度の研究では、日本列島出土三累環頭大刀を網羅的に調査・検討し、その製作技術的な特徴を整理、改めて朝鮮半島出土例と比較することで、新羅との系譜的関係について再検討する。 獅噛環頭大刀は、環頭の内部に獅子の顔のような文様を配した大刀で、朝鮮半島でもほとんど出土例がないが、文様の複雑さ、細部意匠の精緻さから、漠然と朝鮮半島製(多くの場合、百済系)であると認識されている。しかし、これまでの研究では、獅噛環頭大刀の製作技術の検討はほぼなされていない。そこで来年度は、この獅噛環頭大刀の分析にも取り組みたい。予察段階の検討では、上述した三累環頭大刀との共通点が散見されており、その是非について追究していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年10月に、奈良文化財研究所から京都大学白眉センターへと所属変わったことで、当初計画の資料調査をすべて実施し切れなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に、昨年度実施できなかった資料調査を実行する。
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