本研究は世界文化遺産の候補として推薦された「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を例として、世界遺産条約が地方行政や地域社会の中でいかにして社会的な実態を持っていくのかを人類学的に明らかにすることを目的とした。世界遺産登録に関わる法整備には、行政関係者からの住民への説明の機会が様々な場で設けられるが、その説明の場における行政職員の発話・書きことばは世界遺産条約と関連する国内法に直接・間接的にかたちづけられる。このことは、法的翻訳のトレーニングを受けた関係者にとっては理解できることであっても、そうでない人々には簡単ではなく、結果として、法的知識に基づく関係者の優劣がより顕著になってしまうのである。
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