研究課題/領域番号 |
15K17129
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
東 俊之 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (20465488)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 組織間協働 / 地域協働 / 伝統産業 / 媒介者 / ノットワーキング / 地域活性化 / 協働の阻害要因 / 地域性 |
研究実績の概要 |
本年度(平成28年度)は、これまでの理論枠組をより精緻にすることと、実証研究を進めることの両側面を主眼に研究を進め、特に実証研究に力を入れた。 まず理論研究では、研究枠組をより論理的にすべく、関連する諸分野(伝統産業論、地域活性化論、組織間関係論など)の既存研究を深く分析した。その結果、「地域協働の阻害要因」について分析が不可欠であるとの認識に至り、伝統産業を核とした地域協働における阻害要因を新たに検討した。 更に実証研究を進める予備的調査として、経営学、特に経営組織論や経営戦略論の視点から伝統産業を分析している既存研究をレビューした。結果、これまでの研究では、伝統産業とその基盤である「地域との関連を論説している研究が少ないことが発見された。 上記2つの研究成果は関連する面があるため、2016年10月16日に日本マネジメント学会第72回全国研究大会(流通科学大学)において、まとめて学術報告している。 一方で、実証研究では、伝統産業を核とした地域協働における媒介者の行動と、他の協働主体との関連性を中心に、いくつかのフィールド調査、インタビュー調査を行った。特に本年度はこれまでの調査対象(栃木県益子町や石川県金沢市、大阪市東成区深江地区など)に加え、新たに名古屋市緑区有松地区の調査を追加した。有松地区は伝統的工芸品である「有松・鳴海絞り」の産地として著名で、特に「伝統的建造物群保存地区」に認定された町並みを生かした地域活性化で先駆的な活動をしている。また有松地区では、行政(名古屋市)との関係が深いのも特徴である。有松地区の調査により、伝統産地の町並みと地域活性化、ならびに行政と伝統産業との関係などの興味深い成果を得ることができた。 実証研究の成果の一部は、共著(分担執筆)図書で公表する予定であり、既に論稿としてまとめており、編集の段階に入っている(平成29年度出版予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(平成28年度)は、本研究の理論枠組をより精緻にすること、ならびに、実証研究を進めることの両側面を意識して研究を行い、特に後者に力を入れた。 まず理論研究では、「伝統産業産地における協働媒介者の役割」ならびに「伝統産業の経営学的検討」について、先行研究の調査を中心に行った。その成果は、日本マネジメント学会全国大会において学術報告している。この報告では、①これまでの伝統産業論の経営学的検討の問題点として「地域性」への注目度が低いこと、②地域と伝統産業は切り離せない関係にあること、③「緩やかな連携の形成」による地域協働が不可欠であること、④伝統産業に「伝統性」を創造することが必要になってくること、⑤「職人気質」は地域協働の阻害要因のみではなく、職人(作家)間の交流が地域協働の契機となる可能性があること、を結論して提示した。 一方で実証研究では、当初予定していた調査対象数よりも少なくなった。他業務との兼ね合いや調査対象予定者との日程調整がつかなかったためである。しかし、名古屋市緑区有松地区の調査が実現し、また他の調査対象については、既存データの収集や新聞・雑誌記事の収集により、ある程度調査が進展した。 またアンケート調査も実施予定であったが、経営学における伝統産業研究が不十分であることを踏まえ、伝統産業のフィールド調査や情報収集により時間を掛ける必要があると判断し、今年度の実施は見送った。ただし、調査項目については検討で来ているので、次年度の早期にアンケート調査を行う予定である。実証研究に関して、現時点で公表できている研究成果はないが、次年度中に2冊の共著書籍で発表する予定であり、現在ほぼ執筆が終わっている状況である。 以上のように、当初計画からは一部変更しているが、本研究課題を明らかにするための理論研究・情報収集は滞りなくできており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成29年度)は、本研究課題の完成年度にあたる。そのため、これまでに検討してきた「伝統産業地域協働における各地域主体の役割」を精緻にし、かつ「協働の媒介者の役割」をより深く検討する。また対象を広げて、経営学における「つなぐこと(linkage)」(=連結・媒介・連携の概念整理)についても研究を進めている。この成果は、2017年8月開催の「経営哲学学会 全国大会」(熊本学園大)にて学会報告する予定である。更に、「伝統産業地域の活性化事例の分類」も学術発表をする。この研究成果の一部は、2016年10月の日本マネジメント学会で発表済みであるが、より大規模にサーベイしたものを2017年度後半に学会で発表したりや学術論文にまとたりする予定である。 また研究枠組を実証すべく、伝統産業地域のフィールド調査も進めていく。最終年度ということもあり、既存調査対象を中心に調査を行い、一部追加で伝統産業地域の調査を実施する(調査対象数:15地域程度)。また、これまでのインタビュー調査では十分に説明できない箇所については、調査対象地域の各主体に対してより詳細かつ広範なインタビュー調査をする(調査対象数:各10~15程度)。またインタビューだけでは論証できない可能性もあるので、参与観察等で調査を進めることも考えている。 くわえて、定性的調査だけでは不十分な点があるので、定量的調査(アンケート調査)を実施する。具体的には、経済産業大臣指定伝統的工芸品の業界団体を調査対象として、質問用紙を配付し、伝統産業側の地域協働ならびに地域活性化意識を明らかにする。この結果により、追加のアンケートを実施することも考えている。 以上、「伝統産業を核とした地域活性化における地域協働の媒介者」の活動・役割について学術的貢献、および実践的なインプリケーションが提示できるよう、遺漏がないように実証研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初予定の計画よりも、他業務の影響によって学会参加が少なくなったこと、また勤務地の比較的近郊へのフィールド調査が多かったこと、ならび当初は現地調査を予定していた対象との日程調整がつかなかったこと、などによって旅費があまりかからなかったことが理由としてあげられる。またインタビュー調査にかかる謝金が発生しなかったことも理由の一つである。 また関連する学術書籍や外国書籍を購入予定であったが、手持ちの書籍の精読や学術論文の精読に時間を費やしたために科研費での書籍購入は行わなかった。更に研究に必要な備品の購入は一部行った(プリンター等)が、想定していたよりも安価で商品を購入できたために、さほど金額を使用しなかった。また消耗品(プリンタートナー等)も予定よりも必要金額がかからなかった。 以上の理由により、本年度(平成29年度)は当初の予定金額よりも少ない使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度(平成29年度)は、実証研究をより多く行う予定である。現在の調査対象先に加えて、新規に数か所をフィールド調査する予定をしているので、本年度よりも多額の調査旅費が必要になる。更に、アンケート調査も実施予定であり、そのための通信費(切手代等)も必要である。また複数回の学会報告を予定しており、学会参加費や旅費が不可欠である。 また、伝統産業論や組織論などの既存研究の文献レビューも引き続き行う。そのため、国立国会図書館や各大学図書館での資料収集、情報収集のための旅費も要用である。また、既に手に入れている書籍の精読だけでは当然不十分であるので、関連諸分野の専門書籍、更には外国書籍の新規購入も検討している。こうした文献購入のために助成金を活用する。 そして、研究成果を冊子等にまとめ、関係する各位へ謹呈することも予定している。そのための印刷費等にも助成金を使用する予定である。
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