研究課題/領域番号 |
15K17129
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
東 俊之 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (20465488)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 伝統産業 / 地域協働 / 組織間協働 / 媒介者 / ノットワーキング / 地域活性化 / 菌根 / 地域特殊的資源 |
研究実績の概要 |
本年度(平成29年度)は、前年度までの実証研究と理論研究を統合して纏め上げることを目的として研究を進めた。 まず理論研究ではノットワーキング論の精緻化に努めた。特に既存の組織間関係論や地域協働論との差異を明らかにし、その援用可能性に言及した。これまでの組織間関係論では「固定された関係」がイメージされており、また地域協働の媒介者も特定の人物ないし組織が想定されることが多かった。しかし「地域活性化」を考えた場合、多様な協働活動を創出すること必要である。そのため、ノットワーキングのように、特定の課題ごとに組織間で「結び目」(協働)が紡ぎ出され、ほどかれ、再び紡ぎ出されるという律動が繰り返され、結果的に総和として地域活性化につながることを指摘した。また、こうした協働が創発的に生まれる「菌根」をつくることが媒介者の役割として重要であることを明らかにした。 他方実証研究では、伝統産業地域の活性化活動が、①新製品開発を中心とする「ものづくり型」、②イベント開催を中心とする「ことづくり型」、③地域の街並み保全などを中心とする「まちづくり型」に分類できることを明らかにした。地域主体の協働により地域活性化が進められること、また地域の強みを生かした地域活性化が行われていることがそれぞれのタイプの共通点としてあげられるが、地域協働における行政の役割や活動期間の長さに相違があることを指摘した。そして、それぞれの地域内にある「特殊的資源」を見極められる目利きの存在が不可欠であり、彼らが媒介者として地域主体を結び付ける(時には結びなおす)役割を果たすべきであると指摘した。 しかし、伝統産業の先行研究で言及されている産業集積の議論に触れられていないことが新たな研究上の課題として浮上した。そのため、研究枠組みを再考し、次年度は追加のフィールド調査ならびにアンケート調査を行い、研究課題を克服する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度(平成29年度)は2編の論文執筆、2度の学会報告、また2編の共著執筆(1編は校正中のため業績明記なし)を行った。 しかし、2017年8・9月に研究成果を複数の学会(経営哲学学会・実践経営学会)で報告した際に、産業クラスター論や産業集積論、また地域活性化論等の検討が不十分であると指摘された。産業クラスター論や産業集積論の先行研究に蓄積されている「伝統産業地域の組織間(企業間)協働」の視点が欠如していたのは、本研究の粗雑な点であったと考えられる。そこで、こうした問題点を克服すべく、あたらめて産業クラスター論・産業集積論における「伝統産業地域の組織間協働」と、本研究で明確にしようとする「伝統産業地域の活性化における組織間協働」との差異を考察しなければならないと考える。そのため、関連分野の理論研究を行い、かつ変更した研究枠組みでのフィールド調査(インタビュー調査)やアンケート調査をすることが必要になった。 また、担当学生数の増加で教育活動に予想以上の時間を要したこと、ならびに代表研究者(東俊之)が次年度に所属大学を異動することが決定し、その準備に時間よ要したことにより、予定よりも研究時間を確保することが難しくなった。くわえて、調査協力者との関係構築が十分に進まなかったことで、インタビュー等の実証研究も予定より実施できなかった。そのため、本年度が完成予定であったが、補助事業期間延長を願い出ることになった。 ただし、大幅に遅れているとは考えていない。理論研究では、ノットワーキング論を精緻化することができており、また実証研究では既に調査を行っていた名古屋市有松地区や栃木県益子町などの調査を継続して行えている。またこれらの成果は、共著図書において公表できる予定である。 以上の理由により、本研究は当初の予定よりもやや遅れていると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の遅れを取り戻すべく「伝統産業地域協働における媒介者の役割」を深く検討し、理論的・実践的な研究成果を広く公表したい。 まず、新たな課題として浮上した産業集積論の既存研究のレビューを早急に進める。すでに複数の研究の文献調査を行っているもののまだ十分とは言えないので、次年度の課題としたい。例えば、産業集積論における伝統産業の組織間協働では、組織と組織をつなぐ「問屋」の役割が重視されてきた。この問屋と、本研究でいう媒介者との相違についても深く考察したい。そして、これらの研究内容は、次年度秋に開催される学会や研究会において報告したいと考える。 また、上記と関連し、伝統産業地域の調査対象者を広げていくことも必要である。これまでは、NPOやまちづくり団体を中心に調査をしてきたが、伝統産業関連団体や行政組織にもより詳細な調査を行い、また「問屋」などへのインタビュー調査も実施したいと考える。すでに調査を行っている伝統産業地域を中心に実施するが、一部追加で伝統産業地域の調査を実施し、研究に遺漏がないように努めたい(調査対象数:10地域程度)。さらに、インタビュー調査だけでは不十分な場合は、必要に応じて参与観察などを実施することも考えている。 くわえて、本年度に実施予定であったアンケート調査(定量的調査)の行いたいと考えている。経済産業大臣指定伝統的工芸品の業界団体と、各都道府県が指定する伝統的工芸品の業界団体の一部を調査対象(調査対象数:300程度)として、質問用紙を配付して伝統産業側の地域協働ならびに地域活性化意識を明らかにする。 最後に理論研究においても、経営学でも援用されつつある「ノットワーキング」の概念をより深く検討する。既存の組織間関係論や地域協働論との異同については検討を行ったが、例えば社会的ネットワーク論やソーシャルキャピタル論との関連についても考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来ならば本年度(平成29年度)が完成年度であったが、学会発表での指摘の結果、再度研究枠組みを見直すことになり、当初の予定よりもフィールド調査が減ってしまい、またアンケート調査の実施を見送ることになった。また、先方との都合が合わなかったこと、また代表研究者(東俊之)の所属先異動の準備に時間がかかったことにより、2・3月に予定していた追加のフィールド調査を十分に行えなかった。そのために当初想定していたよりも旅費使用額が少なくなった。更に、本務校の他業務の影響によって学会や研究会への参加が少なくなったこともよって旅費があまりかからなかったことも理由としてあげられる。くわえて、謝金が発生しなかったために、予定額よりも多くの残金が発生した。 また研究枠組み再構築のために複数冊の学術書籍や外国語書籍を購入したが、精読に時間がかかり、追加の図書の購入冊数が少なかった。そのために当初の想定よりも使用する金額が少なくなった。更に、資料収集のための旅費使用を考えていたが、Web上で論文の収集等が十分にでき、想定よりも調査旅行回数が少なくて済んだ。 更に、当初は研究に必要な備品の購入は考えていたが、すでに手持ちの物品で事足りたので、金額を使用しなかった。また消耗品(プリンタートナー等)も予定よりも金額がかからなかった。以上により、本年度(平成29年度)は当初の予定金額よりも少ない使用額となった。
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