研究実績の概要 |
まず、これまで繰り返し調査を行ってきた栃木県益子町(伝統的工芸品「益子焼」産地)の調査結果を、共著『地域協働のマネジメント』(中央経済社)において執筆し、上梓した。そのなかで、協働しやすい環境、すなわり「菌根」(エンゲストローム, 2008)を整えることが必要になることを指摘し、伝統産業関係者や行政関係者よりも、NPO等の周辺者が「媒介者」となり、「制度的企業家」として地域の価値観を変化させるように働きかけることが必要であると言及した。そして、制度的な影響を受けやすい伝統産地だからこそ、エンゲストロームらが提唱する「ノットワーキング」の視点で協働を考えることが不可欠であると指摘した。 また、「産業集積としての伝統産業」について、文献調査を行い検討した。なお、事前の計画ではフィールド調査やアンケート調査を計画していたが、蓄積された既存研究が多くあったので、文献調査を中心に行った。伝統産業の産地は「現在産地で産出する製品が昔とだいぶ変わったとしても、産地の形成をみた江戸時代ないしそれ以前からの伝統がいまだ根強く産地の根底に残っているもの」(山崎, 1977, p.26)であり、「経営学の視点で議論する場合、一つの産業を中心に多くの関連業種で構成される地域的な広がり」(山田, 2013, p.2)として検討することが必要であると考えられた。 さらに、上述したように制度的な影響を受けやすい伝統産地において、制度的環境から正当性を得るためには「伝統」をマネジメントすることが必要であると考え、関連諸科学の研究成果を援用することによって、「伝統のマネジメント」について深く検討した。特に、伝統産業地域では、伝統工芸品の持つ「伝統」がブランド化の武器になるだけでなく、「伝統」が核となって地域アイデンティティが形成され、その結果、地域主体の協働が起こることを結論として指摘した。
|