研究実績の概要 |
今年度の本研究の成果は大きく二つある。第一に、日本犯罪社会学会の機関誌『犯罪社会学研究』に論文「死刑制度合憲判決の「時代と環境」――1948年の「残虐」観」を投稿し、査読付き論文として掲載されたことである。同論文は、2015年度末に行なったアメリカ合衆国メリーランド州メリーランド大学およびThe National Archives at College Park, Marylandにおける史料調査の成果でもある。同論文では、なぜ日本は死刑を存置し続けるのかという問いを立て、特に1948年3月12日の最高裁判所での新憲法下における死刑制度合憲判決に着眼しつつ史料等を検討したところ、先行研究にあったような占領期に死刑廃止の機会を逸したというよりはむしろ、占領期という「時代と環境」が死刑制度を存置する要因の一つであったことを明らかにした。 第二に、本研究三年間の集大成である『死刑の戦後史』の草稿を執筆したことである。残念ながら、本研究終了の2018年3月には間に合わなかったが、近日中には出版される予定である。同書は、序章、終章を加えた全七章で構成されている。第一章「占領と死刑」は、先述した『犯罪社会学研究』の論文(2017年度成果)を核にしている。第二章「第一次死刑廃止運動――幻の死刑廃止法案と「刑罰と社会改良の会」」は、同時代史学会での報告(2015年度成果)をもとにしている。第3章「軍隊と死刑」は、 「日本陸軍軍法会議とBC級戦争犯罪裁判の結節点――坂田良右衛門による『クラチエ事件』調査」論文(2015年度成果)をもとにしている。四章、五章は書き下ろしであり(2017年度成果)、終章の「「時代と環境」に注目した死刑論へ」では、「死刑制度と正義」論文(2016年度成果)で提示した両論併記型死刑存置論を軸に展開している。以上のことから、同書は、本研究の集大成となる。
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