研究課題/領域番号 |
15K17682
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
濱本 雄治 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30584734)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 表面物理学 / 第一原理計算 / van der Waals相互作用 |
研究実績の概要 |
一年目に実装した自己無撞着なvdW-DF法を用いて、グラフェン上におけるナフタレンの吸着構造および電子状態の解析を行った。実験的にはナフタレンはHOPG表面に吸着すると秩序立った超構造を形成し、個々の分子は表面に対してわずかに傾いていることが走査型トンネル顕微鏡(STM)で観測されている。一方、二光子光電子分光(2PPE)で観測された鏡像状態は清浄なHOPGと類似したエネルギー分散を示すため、ナフタレン分子吸着が鏡像状態に及ぼす影響はよく理解されていなかった。我々はまずグラフェン上ナフタレンの吸着構造を数値的に求め、低被覆領域ではナフタレンがグラフェンに平行な吸着構造をとるのに対し、2√3x2√3の超構造に対応する被覆率ではナフタレン分子が傾くことを確認した。これらの結果はSTMの実験と傾向が一致する。次に非占有状態を調べたところ、ナフタレン分子層は分子間相互作用によりグラフェンと同様の鏡像状態を生じ、これがグラフェンの鏡像状態と混成することにより系全体に拡がった界面状態が形成されることが分かった。ナフタレン分子層の鏡像状態は分子構造に由来する異方的なエネルギー分散を持ち、この異方性は界面状態にも反映される。2PPEの実験では異方的なエネルギー分散が平均化されたものが観測されていると考えられる。同様の鏡像状態に由来する界面状態は様々な有機固体界面に現れると考えられ、吸着させる有機分子の種類を変えることによって固体表面の鏡像状態の伝導特性が制御可能であることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初vdW-DF法を用いて金属(111)表面上におけるアゾベンゼンの吸着構造の解析を行う予定であったが、グラフェン上にナフタレンを吸着した系で鏡像状態の混成に由来する特異な界面状態が形成されることが分かってきたため、二年目は後者の研究に充てた。グラフェン上におけるナフタレン吸着はvan der Waals相互作用が重要となる典型的な物理吸着系であり、本研究課題の趣旨と合致している。グラフェン上ナフタレンの研究成果は既に国際会議で口頭発表済みであり、論文も間もなく投稿できる段階まで仕上がっている。
|
今後の研究の推進方策 |
二年目に取り組んだグラフェン上におけるナフタレン吸着の研究から、固体表面上に分子単層膜が形成されると分子層上に非自明な鏡像状態が生じ、これが固体表面の鏡像状態と混成することにより特異な界面状態が現れることが分かった。ナフタレン吸着の場合、二回軸対称な分子構造により長軸方向にはグラフェンと同程度、短軸方向には4割程度大きな有効質量を持つ異方的な鏡像状態由来の界面状態が現れることが分かった。三年目は、より有用な有機固体界面の例としてグラフェンに鉛フタロシアニンを吸着した系の鏡像状態由来の界面状態を調べる予定である。この場合、鉛フタロシアニン分子の四回軸対称性を反映した有効質量を持つ界面状態が現れると予想される。 余裕があればHOPGの実験との比較を可能にするために、スラブ模型ではなく、embedding Green関数法による半無限のHOPG表面を用いた分子吸着系の解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に使用する物品の購入費用とする予定であったが、前年度に購入した物品で間に合ったため使用しなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
海外の国際会議における研究成果発表のための渡航費用および物品費として使用する。
|