研究課題
本研究課題では、van der Waals密度汎関数(vdW-DF)法を用いて固体表面上における分子吸着構造および表面電子状態の解析を行った。まずSi(100)面上におけるベンゼン吸着の解析では、競合する安定構造として知られるBF構造とTB構造を比較した。これらの構造の安定性は観測条件に依存し実験的にも長年議論が続いているが、理論的にはvdW-DFがBFを支持するのに対し、別の方法でvdW補正を導入したDFT-D法やTkatchenko-Scheffler法、より高精度なEX+cRPA法はすべてTBを支持するという矛盾があった。我々は交換項による斥力の過大評価を修正した最新のvdW汎関数を用いることでこの矛盾が解消され、理論的には一貫してTB構造が安定になることを示した。次にグラフェン上におけるナフタレンの吸着構造と鏡像状態を調べた。鏡像状態は固体表面に束縛された普遍的な非占有状態であり、面内方向の自由電子的に振る舞いで特徴付けられる。固体表面への分子吸着による鏡像状態の伝導特性への影響を明らかにすることは有機発光ダイオード等のデバイス応用の観点から重要である。実験的にはグラファイト表面上で秩序立ったナフタレン単分子層が形成され、清浄なグラファイト表面と同様の鏡像状態が出現することが観測されている。我々はvdW-DF法を用いてグラフェン上におけるナフタレンの安定構造を決定し、非占有状態の詳細な解析を行った。その結果、最低の鏡像状態としてナフタレン単分子層に誘起した鏡像状態とグラフェンの鏡像状態の混成状態が出現することが分かった。この混成状態はナフタレンの分子構造を反映した異方的な有効質量を示す。混成した鏡像状態は様々な有機-金属界面に普遍的に存在すると考えられ、我々の研究成果により分子吸着系の表面状態の新しい側面が明らかになった。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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