研究課題
本研究課題では、原始惑星系円盤内での多様な物理過程を詳細な数値計算により検証し、最終的に全プロセスをモデル化して組み込んだモンテカルロ計算を行うことにより、太陽系形成理論の新しい枠組みの提案を目指す。本年度はモンテカルロ計算コードの拡張、新しいN体計算コードの開発、および今後の理論モデル拡張のための基礎的研究を行った。まず、原始惑星系円盤の温度構造の進化や、惑星移動についての表式をまとめ直し、モンテカルロ計算用に定式化を行った。これらの表式を実際に計算コードに導入することで、太陽系形成理論に関する基本的な数値計算コードを再構築した。本研究で拡張した計算コードは汎用性が高く、今後様々な惑星形成の研究に応用することが可能である。以上の成果については、Sasaki & Ebisuzaki (2017) などにより報告済みである。また、Pezy-SC で動作する FDPS を用いた新しいN体計算コードの開発も行った。特に衝突の際に合体を考慮しない rubble pile モデルでの計算を高速で行うことができるようになった点が重要である。本計算コードを用いた月形成のN体計算を行い、現在その結果について投稿論文を準備中である。さらに、巨大天体衝突の際にばらまかれる衝突破片の地球への再集積が、初期地球に対して力学的・化学的にどのような影響を及ぼすかについて詳細な議論を行った。この成果については、Genda et al. (in press) などにより報告済みである。
2: おおむね順調に進展している
惑星形成に関する複数の数値計算コードを構築することができた点は、非常に大きな成果である。特にN体計算コードについては、これまでのN体計算では達成できなかった超高解像度の計算を高速に行うことが可能となったため、今後は様々な問題に対して独占的に計算を行うことが可能となる。数値計算コードの開発については、短期間でかなりの研究の進展があったと考える。また、当初の研究計画の枠を超えた新たな研究課題についても積極的に取り組み、確実に成果を挙げている点も重要である。新たな研究課題への取り組みにより、太陽系形成理論に対してより複眼的な視点を得ることができた。今後の理論モデルの拡張に向け、有意義な研究の進展があったと考える。以上の研究成果については、2本の査読論文、および複数の学会発表によって報告を行っている。本年度は、研究計画の遂行および新たな研究課題への取り組みにおいて、質・量ともにおおむね順調な研究の進展があったと考える。
今年度に開発したN体計算コードを用いて、惑星形成過程に関する大規模なN体計算を行う。特に局在化した微惑星の集積による原始惑星形成のタイムスケールを見積もり、その結果をもとにモンテカルロ計算のコードを再構築する。衛星形成プロセスについても大規模N体計算によるパラメータスタディを行うことで、多様な形成プロセスの可能性を明らかにする。また、pebbles の流入による惑星の成長や地球型惑星への水の供給プロセスについても見積もりを行う。特に pebbles の物理量をパラメータとして計算することで、地球型惑星が獲得する水の量を定量的に決定する。最終的には以上の研究を総合し、太陽系形成理論に関する数値計算コードを完成させ、地球型惑星形成や巨大ガス惑星のコア形成に関するモンテカルロシミュレーションを行う。それにより、新しい太陽系形成の理論の枠組みを提案することを目指す。
昨年度に大型計算機を購入したこと、および今年度に理化学研究所の計算機のアカウントを取得したことにより、今年度は計算機環境の充実を行う必要が無くなった。さらに、論文投稿費として計画していた分が、実際には投稿費が必要無い、あるいは共著者が支払うことになったため、使用しなかった。
最終年度のため、さらに大規模な計算を行うことを予定しており、計算機環境の増設、およびそれにともなう各種ソフトウェア等を購入する。また、これまでの研究成果の発表も積極的に行っていくため、国内外を含めた学会への旅費が当初の予定よりも増えることが予想されるので、旅費への使用も行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 470 ページ: 87-95
10.1016/j.epsl.2017.04.035
Geoscience Frontiers
巻: 8 ページ: 215-222
10.1016/j.gsf.2016.04.002
http://sasakitakanori.com