研究課題/領域番号 |
15K17844
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
波多野 さや佳 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30648689)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 逆フォトクロミズム / ノルボルナジエン / クアドリシクラン |
研究実績の概要 |
本研究では、ノルボルナジエン誘導体のフォトクロミック挙動に及ぼす置換基効果を精査して、逆フォトクロミック分子の合理的な分子設計と創製手法を確立する。光照射によって2つの異性体間で物性変化が生じるフォトクロミック分子は機能性材料への応用が研究されているが、光照射時に消色する“逆フォトクロミズム”を示す分子は報告例が少ない。その一因として、分子設計段階で逆フォトクロミズムを示すことが明確に予測できる分子骨格が確立されていないことが挙げられる。本研究では、逆フォトクロミズムを示す分子骨格を明らかにし、通常のフォトクロミック分子では不可能であった新たな物性を発現する分子を開拓することで、これまでにない機能性材料への応用へと展開させることを目的とする。 ボルボルナジエン(NBD)は光照射により二重結合部位の結合組み換えが起こることで、クアドリシクラン(QC)と呼ばれる多環状炭化水素へと変化し、触媒または熱的に元のNBDに戻ることが報告されている。この系では、光照射によりNBDの2つの二重結合が開裂してQCが形成される際、共役長が減少するために逆フォトクロミズムが生じることが期待される。また、NBDは適切なドナーおよびアクセプター性置換基を導入することで、ドナー部位からアクセプター部位へのエネルギー移動に起因する吸収が長波長領域に現れることも報告されている。実際に量子化学計算結果から、ドナー性置換基としてp-メトキシベンゼン、アクセプター性置換基として-COPh基を導入したNBD誘導体が逆フォトクロミズムを分子として適切であることが示唆された。 そこで、平成27年度は設計した目的化合物の合成およびそのフォトクロミック特性についての検討を行った。設計した分子は目的どおり、逆フォトクロミズムを示すことが明らかとなったが、その光異性化率は非常に低く、置換基の再検討が必要な結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は計画どおり、量子化学計算から“逆フォトクロミズム”を示すことが示唆される適切な分子を設計し、その合成に成功した。また、紫外可視分光光度計を用い、光照射前後の溶液の吸収スペクトル、および光照射によって生成する異性体の熱戻り反応過程の経時変化を測定して、フォトクロミック挙動の大枠を検討した。その結果、設計した分子は目的どおり、逆フォトクロミズムを示すことが明らかとなり、本研究の戦略は正しいことを示すことができた。しかし、設計した分子の光異性化率は非常に低く、最終目標である機能性材料への応用には、分子設計の再検討が必要な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果を踏まえ、分子設計の再検討、合成、フォトクロミック特性の検討を行い、これまでにない機能性材料へと展開するための礎を構築する。すでに、分子設計の再検討は行っており、現在合成を検討中である。前年度で、誘導体の合成方法はある程度確立されているので、ドナー性置換基、アクセプター性置換基の組み合わせにより、数種類のノルボルナジエン誘導体を合成し、そのフォトクロミック特性を検討することも視野に入れ、本研究を推進させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、分子設計・合成を行った目的分子が、期待したフォトクロミック特性を発現しなかったために、当初購入を予定していた物性測定に必要な装置の購入を見送った。そのため、翌年度分として助成金の請求を行う。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度はフォトクロミズムの検討に不可欠である、光照射器の購入を予定している。また、測定に必要となる物品の購入も検討している。
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