光照射によって2つの異性体間で物性変化が生じるフォトクロミック分子は機能性材料への応用が研究されているが、光照射時に消色する“逆フォトクロミズム”を示す分子は報告例が少ない。その一因として、分子設計段階で逆フォトクロミズムを示すことが明確に予測できる分子骨格が確立されていないことが挙げられる。本研究では、ノルボルナジエン誘導体のフォトクロミック挙動に及ぼす置換基効果を精査して、逆フォトクロミック分子の合理的な分子設計と創製手法を確立することを目的とする。 ノルボルナジエン(NBD)は光照射により二重結合部位の結合組み換えが起こることで、クアドリシクラン(QC)と呼ばれる多環状炭化水素へと変化し、触媒または熱的に元のNBDに戻ることが報告されている。この系では、光照射によりNBDの2つの二重結合が開裂してQCが形成される際、共役長が減少するために逆フォトクロミズムが生じることが期待される。また、NBDは適切なドナーおよびアクセプター性置換基を導入することで、ドナー部位からアクセプター部位へのエネルギー移動に起因する吸収が長波長領域に現れることも報告されている。実際に量子化学計算結果から、ドナー性置換基としてパラメトキシベンゼン、アクセプター性置換基としてCOPh基を導入したNBD誘導体が逆フォトクロミズムを示す分子として適切であることが示唆された。 平成28年度は、前年度に設計・合成を行った新規ノルボルナジエン誘導体のフォトクロミック特性についての検討を詳細に行った。設計した分子は目的どおり、逆フォトクロミズムを示すことが明らかとなったが、その光異性化率は非常に低く、置換基の再検討が必要な結果となった。ドナー性、アクセプター性置換基の異なる誘導体も数種合成を行い、それらのフォトクロミック特性についての検討も行ったが、光異性化率のよい誘導体の開発には至らなかった。
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