研究課題
主に酸化物における高温域での輸率評価へ向けた準備として、本年度は、点欠陥平衡濃度の評価方法の適用検討と易動度評価のための予備検討・準備を進めた。第一原理計算により得られる結晶中点欠陥の形成エネルギーを用いて点欠陥平衡濃度を算出する手順を自動化した。これを、酸化物中欠陥濃度の酸素分圧依存性の検討や共有結合性の半導体における欠陥濃度評価へと応用し、妥当性を検討した。パイロクロア型結晶構造をもつチタン酸化合物における欠陥濃度の酸素分圧依存性の計算結果は、電気伝導実験の結果と定性的に整合し、この系において酸素フレンケル欠陥が支配的になることが確かめられた。同様にイオン拡散がマクロ物性を支配する高温酸素透過において、チタン酸化合物では格子間酸素の寄与と酸素空孔の寄与が打ち消し合い、それらの差分が実験結果に現れていることが示された。また、半導体の系において、真性点欠陥と不純物元素がキャリア濃度に及ぼす影響の検討を実施し、キャリア生成を抑制する因子についての理解が得られた。酸化物中の酸素イオン伝導計算の例として、チタン酸化合物結晶中における酸素イオンに注目し、拡散障壁エネルギーの計算を実施した。起こりうるパターンについて順次検討を進め、酸素空孔の拡散障壁エネルギーが0.3-0.4eV程度と比較的小さくなることが分かった。更に、Tiに局在した電子のホッピング伝導のエネルギー障壁の計算と電子の伝導率を求めるための計算条件の検討を進めた。以上の基礎的過程の物性値評価に基づき、電子系とイオン点欠陥の易動度評価、及び輸率評価を今後実施する。
2: おおむね順調に進展している
第一原理計算によって得られる点欠陥形成エネルギーから、点欠陥濃度を自動的に評価するためのプログラムを作成することで、様々な結晶系への展開が容易になった。一方で、輸率評価に必要な易動度評価は条件検討を進めている段階である。輸率評価を行うための準備は着実に整ってきており、概ね順調であるといえる。
今後は、電子系の易動度の理論評価を中心に進める。これまでの調査と予備検討から、計算対象としてアルミナとチタン酸化合物を選択する。アルミナはドリフト伝導、チタン酸化合物はポーラロン伝導の例として、本開発手法の適用検討が可能である。更に、点欠陥濃度評価の方法を、他のイオン結晶や共有結合主体の半導体の系に適用し、濃度評価が結晶中の欠陥挙動の解析手法としてどの程度有効かを明らかにする。
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