脳内のマリファナ類似物質である内因性カンナビノイドは、カンナビノイド受容体1型(CB1)の活性化を介してシナプス伝達を短期的あるいは長期的に抑制する。近年、海馬歯状回の歯状回門に位置するグルタミン酸作動性の苔状細胞と顆粒細胞によって形成される興奮性シナプスにおけるCB1受容体の活性化がてんかん発作を抑えることが明らかになってきた。しかし、その機構の詳細は不明である。本研究では、歯状回の苔状細胞-顆粒細胞シナプスにおけるCB1受容体依存性の長期シナプス可塑性を電気生理学的に解析することを目指した。 本研究においてグループI代謝型グルタミン酸受容体のアゴニストであるDHPGと低頻度刺激を組み合わせることでCB1受容体依存性の長期抑圧(LTD)が引き起こされることを明らかにした。さらに逆に高頻度刺激によって長期増強(LTP)が誘導されることを見いだした。このLTPはシナプス前性の変化によって生じ、NMDA受容体非依存的であることがわかった。さらにシナプス前部でのcAMP/PKAシグナルが必須であることを明らかにした。しかし、重要なことに苔状細胞-顆粒細胞シナプスにおけるLTPはCB1受容体非依存的であった。これまでの本研究により、未解明であった苔状細胞-顆粒細胞シナプスにおいてLTDとLTPという2種類の長期シナプス可塑性を見いだすことができた。今後の展開として、LTPとLTDのクロストークの可能性を検討する必要がある。特にLTPによる過興奮をLTDが抑える方向に働くとすれば、内因性カンナビノイドによる抗てんかん作用がLTDを介して発揮される可能性が期待される。
|