哺乳動物の生殖細胞の発生過程において、ヒストンのエピジェネティックな修飾が著しく変動することが知られている。我々はヒストンH3K4/H3K36の脱メチル化酵素であるKdm2aの精子形成における機能を明らかにすることを目的として、生殖細胞特異的Kdm2a KO(Kdm2a cKO)マウスを作成しその解析を行った。その結果 、Kdm2a cKOマウスの精巣上体には精子形成がほとんど存在せず、精子形成に重篤な異常が生じていることが明らかになった。次に、フローサイトメーターを用いて精細胞の分化を解析したところ、Kdm2a cKOマウスでは未分化精原細胞から分化型精原細胞の移行が著しく抑制されてた。さらに、Kdm2a cKOマウスの精原細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析したところ、精子形成や減数分裂に関与する遺伝子群の発現が有意に低下していた。また、H3K4me3特異的抗体を用いたKdm2a cKO精原細胞のChIP-seq解析を行ったところ、広範なゲノム領域においてH3K4me3の更新が起こっていた。さらに、ChIP-seqとマイクロアレイ解析で共通して変動する遺伝子群の中から、精原細胞の分化に重要な役割を果たすことが知られているmTORCのシグ ナルに着目して解析を行ったところ、Kdm2a cKO精原細胞ではmTORCの抑制因子であるREDD1の発現亢進ならびにmTORC活性の低下が起こっていること、およびRedd1遺伝子のプロモーター領域でH3K4のメチル化が亢進していることを明らかにした。このことから、Kdm2a欠損に起因した精子形成不全は、mTORCの抑制による精原細胞の分化異常によることが強く示唆された。
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