研究課題/領域番号 |
15K18962
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
柏木 太一 東京医科大学, 医学部, 助教 (10398232)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海馬 / 神経幹細胞 |
研究実績の概要 |
胎生期の海馬にはグリア細胞でないにもかかわらずグリア線維性酸性タンパク質 (GFAP)を発現している細胞が認められる。GFAPプロモーター制御下でGFPを発現するGFAP-GFPトランスジェニックマウスを用いた解析から、このGFAP発現細胞は海馬歯状回ニューロンの顆粒細胞へ分化する細胞群であることが見出された。前年度の研究では、胎生期海馬のGFAP発現細胞は単なる神経前駆細胞ではなく、多分化能を有する神経幹細胞としての性質を有すること、そして、この細胞の産生には胎生期の海馬で強く発現が認められるBMPが重要な働きを担っていることを明らかにした。海馬の神経幹細胞は胎生期の大脳皮質に存在する神経幹細胞とは異なった性質を有しているため、この因子が海馬神経幹細胞としての性質を獲得するために重要な役割を果たしているのではないかと推測した。海馬神経幹細胞の大きな特徴の一つにほぼ一生涯長期間にわたって未分化性が維持されることが挙げられる。従って、その細胞系譜を知ることは海馬神経幹細胞の性質の解明に重要である。そこで、前年度に作成を試みたGFAPプロモーター制御下でタモキシフェン誘導性リコンビナーゼCreERT2を発現するGFAP-CreERT2トランスジェニックマウスの解析を進めている。GFAP-CreERT2マウスとレポーターマウスAi9と交配し、タモキシフェンを投与することでGFAP発現細胞をラベルし、GFAP発現細胞の細胞系譜解析を進めている。平成28年度は得られたトランスジェニックマウスのラインの選別と、GFAP発現細胞の細胞系譜を調べるために適切なタモキシフェン量の検討を行った。現在その検討は継続中である。海馬成体神経幹細胞の由来はこれまで謎に包まれており、この研究により得られる結果は胎生期から成体期に至るまでの形成過程の解明に寄与するものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度に作成したGFAP-CreERT2トランスジェニックマウスとレポーターマウスAi9とを交配し、タモキシフェンを投与することで胎生期海馬のGFAP発現細胞をラベルすることを試みたが、ラベリングの効率が良好でなく、GFAP発現細胞の細胞系譜を論じるためのデータを得ることが困難であった。そこで、28年度にはトランスジーンの構造を見直し、トランスジェニックマウスの作成を再度試みた。トランスジーンがきちんと機能するかを確認するためにトランスジーンを含むベクターをエレクトロポレーション法にてマウス胎仔脳に導入し、タモキシフェンを投与したところ、胎生期海馬において良好なラベリングが認められた。現在、得られたトランスジェニックマウスのラインの選抜と、GFAP発現細胞がどの様な細胞系譜をたどったかを調べるためにAi9と交配したマウスにおいて効率よくラベルされるタモキシフェン投与の条件を検討しているところである。また一方で、胎生期および成体期海馬神経幹細胞の分子基盤の解明も重要なテーマであるため、トランスジェニックマウスにおけるGFAP発現細胞のラベリングがうまく行われない場合も考慮し、GFAP発現細胞の細胞系譜を決定する分子メカニズムの解明も試みている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は胎生期海馬に存在するGFAP発現細胞の細胞系譜を解析することと、細胞運命決定メカニズムを明らかにすることを大きな目的としている。GFAP発現細胞の細胞系譜の解明のためにGFAP-CreERT2トランスジェニックマウスとレポーターマウスであるAi9とを交配し、そのマウスにタモキシフェンを投与することでGFAP発現細胞のラベルを行う。また一方でトランスジーンを含むベクターをエレクトロポレーション法にて胎生期の海馬へ導入することでも局所的ではあるがGFAP発現細胞をラベルすることが可能であることを確認したため、トランスジェニックマウスの解析と並行して行うことにより精度の高い解析を目指す。ラベルしたGFAP発現細胞は色々な発生段階でニューロンやグリア細胞、神経幹細胞の分化マーカーの免疫染色を行うことで細胞系譜を調べる。また、GFAP発現細胞の運命を決定する分子メカニズムの解明のためにはBMPシグナルに関係する因子を解析することにより研究を進めていく。GFAP発現細胞の運命決定機構の解明により、GFAP発現細胞の細胞系譜を分子レベルで議論することが可能になる。本研究課題により海馬歯状回の形成過程について包括的な解明が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度のGFAP-CreERT2トランスジェニックマウスの作成が想定通りにいかなかったため、28年度に予定していたトランスジェニックマウスの解析が行えず、研究計画に遅れが生じた。このため、当該年度の使用額が予定より少なくなった。また、研究期間延長の申請を行い、残りを次年度に使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
27年から28年にかけて作成を試みたトランスジェニックマウスの解析を延長年度である29年度に行う予定である。各種分化マーカーを免疫染色によって検出することでGFAP発現細胞の細胞系譜を調べる予定であり、免疫染色を行うための抗体などの研究試薬、細胞培養に使うプラスチック製品などの消耗品を29年度に使用する予定である。
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