研究課題/領域番号 |
15K19473
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高井 良樹 東北大学, 大学病院, 医員 (40725743)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | NMOモデルの確立 / 二次性脱髄機序の解明 |
研究実績の概要 |
視神経脊髄炎 (Neuromyelitis Optica: NMO) は、重度の視神経炎と脊髄炎を臨床的特徴とし、疾患特異的な自己抗体によって特徴づけられる。 その対応抗原はアストロサイトの足突起に発現するアクアポリン4 (AQP4)であり、我々はNMOの一次的な病態がアストロサイト障害であることを報告してきた(Misu et al. Brain, 2007)(Takano et al. Neurology, 2010)。しかし、NMOの本質的な病態解明及び治療戦略を考える上で、アストロサイト障害以後に生じる髄鞘脱落及び神経変性のメカニズムを解明することは必須である。 我々は、アストロサイト障害と髄鞘脱落の関連性を明らかにするため、適切なモデル動物を用いた実験系を確立した。申請者らは共同研究先との協力により、AQP4細胞外ドメインに高親和性に結合し、補体活性化能を有するモノクローナル抗体 (mAb) を複数樹立した(Miyazaki et al. J Neuroimmunol, 2013等)。そのうち、マウスAQP4に最も親和性の高かった抗体を、ヒト補体と共にマウス脳に直接注入することで、NMOと同様のアストロサイト障害が生じる事を確認した(Miyazaki et al. Br J Pharmacol, 2016)。更に、このモデルマウスでは経時的に髄鞘が脱落すること、抗体と同時に注入する補体の濃度依存性に脱髄範囲が拡大することを見出した (未発表)。また、実的自己免疫性脳脊炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)を誘導したラットに対して、前述の抗体を投与することで広範なアストロサイト障害を生じさせることに成功した(Kurosawa ent al. Acta Neuropathol Commun, 2015)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いるNMOマウスモデルについては、モデルの作成から病理学的な検討に至る一連の工程を確立し、AQP4を含むアストロサイトの評価、髄鞘および神経軸索障害、各種炎症細胞浸潤の経時的な観察が終了した。また、補体分解産物の一種が脱髄に関与している可能性、コネキシン (Cx) やExcitatory amino-acid transporter 2 (EAAT2) 等のアストロサイトの機能蛋白は、慢性期脱髄に寄与しないという新たな知見も得られている。 また、本研究で用いているマウスAQP4細胞外ドメインを認識するmAbは、ラットAQP4に対しても高親和性に結合することを細胞レベルで確認した。更に、EAEを誘導したラットに対して、このmAbを投与することで、広範なアストロサイト障害が生じることを見出した(Kurosawa ent al. Acta Neuropathol Commun, 2015)。マウスモデルでは、自己の補体を賦活化することができないことから、モデル作成に異種の補体を要するが、ラットではその必要性がない。このラットモデルにおいては、経時的変化および二次性組織障害の評価は未施行であるが、両モデルを解析することで、特にNMOにおける補体の関与という観点から、多角的に詳細な検討を加えることが可能となった。 以上の工程を終了しており、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、アストロサイト障害に伴う二次性の組織障害に主眼を置いている。モデル動物の作成については、マウスおよびラットの両者で方法を確立した。病理組織学的な検討については順調に推移しているが、二次性組織障害に関与する因子を、遺伝子および蛋白の発現レベルから網羅的に解析する上では組織学的検討はあまり適さない。したがって、作成したNMO病変を切離した上で、マイクロアレイを用いた網羅的解析を検討している。組織学的検討は、NMO病変の同定自体が可能であるが、マイクロアレイ解析を行う上では、in vivoにおける病変部位の同定が必要不可欠である。この点を解決するため、MRIによるイメージングを導入している。既にNMO病変の同定は可能であることを確認しており(未発表)、病理組織学的な変化との対応について現在解析中である。 また、ラットモデルにおいては、現在EAEを誘導した状態での抗AQP4抗体投与を行い、アストロサイト障害病変の出現を確認しているが、このモデルでは髄鞘脱落及び神経変性がEAEに由来するものか、抗AQP4抗体投与によるアストロサイト障害に由来するものか不明という点で適切ではない。従って、抗AQP抗体のラット脳および脊髄への直接注入モデルや、アジュバンドのみ投与したラットへの抗AQP4体投与モデルの作成を検討中である。 また、これらのNMOモデル解析によって髄鞘障害に影響を与えることが推測される因子については、NMO患者由来の血中及び髄液における変化を解析すると共に、抗AQP4抗体価や臨床症状との相関も合わせて評価検討する予定としている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子レベルでの網羅的解析を行うために、病変部位の同定目的として、動物モデルのイメージング等、予定していた実験計画に加えて予備実験が必要となったため、実際に行った実験回数が減少した事。
|
次年度使用額の使用計画 |
予備検討が終了次第、実験計画に沿った検討を行うため、予定通りの予算が必要となる見込みである。
|