平成27年度には、真珠腫の構成細胞である角化重層扁平上皮細胞と線維芽細胞をマウス耳介から単離を行い、この二種に細胞からなる腫瘤が生体内 にて破骨細胞分化を誘導しうることを見出した。また、角化扁平重層細胞と共培養した繊維芽細胞ではRANKL(破骨細胞分化調節因子)発現の上昇が見られることを確認した。これらから、角化扁平重層扁平上皮細胞から分泌される何らかの液性因子が線維芽細胞に作用し、RANKL発現を上昇させ、破骨細胞分化を誘導することが想定された。 平成28年度はヒト真珠腫組織を用い、前述の事象がヒト真珠腫における骨破壊の要因となりうるかを検証した。まず、ヒト真珠腫臨床検体において、破骨細胞の存在の確認をTRAP染色を用い行った。真珠腫が接する骨上での破骨細胞が高率に存在することを確認できたことから、ヒト真珠腫においても破骨細胞が骨破壊に関与している可能性を示した。 平成29年度には、ヒト真珠腫におけるRANKLの供給源およびRANKL誘導因子の検証を行った。まず、perimatrixの線維芽細胞がRANKLを高発現していることを免疫染色にて確認した。更には、ヒト真珠腫組織のperimatrix層をLaser micro dissectionにて単離し、RNAシークエンス解析を行った。そこで、真珠腫組織では、コントロールの正常皮膚と比較し、破骨細胞分化に関与する遺伝子群の有意な発現上昇を認めることが判明した。上流解析では、IL1β等の炎症性サイトカインの関与が示唆された。これらから、ヒト真珠腫において、何らかの炎症性サイトカインにより線維芽細胞のRANKL発現が上昇し、真珠腫と接する骨上に破骨細胞分化が誘導され、骨破壊が生じることが示唆された。
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