Aquaporin3(AQP3)やAquaporin5(AQP5)は水チャネルとして水透過に重要な分子で、近年、皮膚癌や肺小細胞癌など種々の癌組織においても高発現していることが報告されている。本研究では、AQP3およびAQP5の発現を制御することにより、口腔癌細胞の増殖・浸潤・転移に影響を及ぼす可能性について検討した。 まず、ヒト口腔扁平上皮癌組織切片におけるAQP3およびAQP5の発現、口腔扁平上皮癌培養細胞におけるAQP3およびAQP5の発現を検討した。抗AQP3抗体、抗AQP5抗体を用いた免疫組織化学染色の結果、癌部にAQP3、AQP5の発現を認めた。癌部、非癌部におけるAQP3およびAQP5の発現強度をスコア化したところ、癌部と非癌部の間で両者の発現強度に有意な差を認めた。同一症例のAQP3、AQP5の発現の相関性を比較検討したところ、両者の発現の間には正の相関を認めた。さらに各培養細胞におけるAPQ3およびAQP5の発現をウェスタンブロッティング法にて検討し、舌扁平上皮癌由来のSAS、SCCKNおよび歯肉扁平上皮癌由来のCa9-22において、AQP3、AQP5の高発現を認めた。以上より、AQP3およびAQP5の高発現は、口腔扁平上皮癌において何らかの役割を果たしていることが示唆された。 次に、SASならびに食道癌由来の扁平上皮癌KYSE70に汎AQP阻害薬を処置したところ、細胞形態の変化と有意な細胞増殖の抑制が認められた。さらに、SASに対し特異的siRNAを作用させAQP3、AQP5をノックダウンしたところ、有意な細胞増殖の抑制、ならびにインテグリンの発現が抑制され、FAK、その下流のMAPK経路の抑制を認めた。AQP3やAQP5とそのシグナルが、扁平上皮癌の細胞増殖とその形態維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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