研究課題/領域番号 |
15K20824
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
金山 浩司 東海大学, 現代教養センター, 講師 (90713181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 科学の国際性 / ヘミ・グローバリゼーション / 坂田昌一 / 科学・技術のローカル性 |
研究実績の概要 |
本年度は、冷戦期における科学論分野の言論活動(とりわけ物理学を対象にした)が持つ国際的な広がりを検討するための一環として、日本国内で旧社会主義圏にシンパシーを抱く物理学者たちと、東側諸国(ソ連や中華人民共和国)の為政者やイデオローグとの相互交流に光をあてた。 当該時期の学術文化交流についてはこれまでにも研究が存在するが、自然科学部門については、断片的な情報が知られるにとどまっていたといってよい。そこで着目したのが、マルクス主義に深い共感を抱いていたことで知られる物理学者・坂田昌一(1911-1970)である。名古屋大学に所収されている坂田の個人文書も用いつつ、これまでほとんど知られていなかった、ソ連の科学哲学者との交流などについても検討し、坂田の生涯を通じての、社会主義諸国(ソ連と中華人民共和国)との交流の見取り図を与えることを試みた。この成果は、論文「ヘミ・グローバリゼーションのもとでの日本物理学者 : 坂田昌一と弁証法的唯物論」としてまとまり、6月刊行の『現代思想』誌に掲載されている。 坂田を例にとって探究したことは以下のとおりである。すなわち、20世紀半ばの日本知識人に一般的にみられた、社会主義イデオロギー(自然哲学も含め)への傾倒が、戦後に実際の社会主義諸国との交流という場を得た際に、どのような変化をたどったのか。また、同様の興隆の中で日本独自の論点はどこにあったか。これらを検討することにより、マルクス主義の素養を前提とした学者たちの知的交流の国際的広がりと、世界の思想史におけるその意義を跡付けることを目指した。坂田昌一あるいは物理学者に限らない、同様の研究は今後も推進されるべきだと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦中戦後の日本科学者(武谷三男、坂田昌一を中心とする)の科学論や技術論を追うなかで、ソ連をはじめとする旧社会主義諸国との知的交流という新たな歴史学上のテーマが浮上してきた。本来の研究目的である、科学と技術との相互関係に関しては本年度はさほど追えなかったものの、この新たなテーマを追究し新知見を含んだ論文を公刊できたので、まずは順調に研究は進んでいるものと自己評価したい。 また、科学と技術との関係については、戦時中戦後における、科学や技術のローカル性(非・普遍性)を強調する傾向があったこと、科学と技術の両者を結びつけ、共通性を強調する思想的理路が複数の論者のもとに見出せることを、確認(現時点では未発表だが)している。
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今後の研究の推進方策 |
1.旧社会主義諸国との知的交流により、日本の科学論・技術論が受けた影響、そして日本から発信された科学論・技術論の知見のうちオリジナルな点がどこにあったのかを、各種自然科学分野のそれぞれに関して検討する。このことにより、社会主義諸国そしてそれにシンパシーを抱いていた自然科学系知識人の国際ネットワークがいかに形成され科学・思想の世界的展開に寄与していたかを明らかにしていきたい。 2.日本の、戦時中(アジア・太平洋戦争中)から戦後すぐ(1950年前後)における科学論・技術論の中で、科学と技術との相互関係がいかに捉えられていたか、また、この両者の共通性があるとすればどこに見出されていたのかを、幾人かの著者(相川春喜、山田坂仁)について検討し、同時期の科学論・技術論の到達点を探るとともに、現代的意義を明らかにしていきたい。
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