ゲーテは神学・哲学・自然科学の各文脈で、それぞれガイスト概念を「雰囲気」との関わりから再解釈した。なかでも時間論的枠組みにおけるガイスト概念の用法は注目に値する。彼のガイスト概念には、全体性の理想と結び付いた過去や未来の表象が、時間的なずれによって直接的に知覚されないがために、かえって深層と表層の現在的な重なりにおいて知覚されるようになるというパラドクスが確認できる。そうした現在の深層=表層は、彼の著作で繰り返し雰囲気的に表現されている。ただし晩年のゲーテ作品においてはこの逆説構造そのものが戯れに満ちた自己批判を伴って語られるようになり、その輪郭はますます曖昧になっていった。
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