研究課題/領域番号 |
15K21282
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 慎哉 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30464564)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | histone acetylation / microRNA / prostate cancer / androgen receptor / HDAC inhibitor / hormone therapy |
研究実績の概要 |
我々の研究目的は、現状では完治困難なホルモン治療抵抗性前立腺癌に対する、エピゲノム制御を介した増殖抑制メカニズムの探究である。我々はエピゲノム機構の1つであるヒストンアセチル化に着目し、ヒストンアセチル化を促進するHDAC 阻害剤が、異なる増殖機構を有する複数のホルモン治療抵抗性前立腺癌の増殖を抑制するメカニズムの解明を目指した。
以下、平成27年度に行った実験結果を示す。実験①:ホルモン治療抵抗性前立腺癌細胞株22Rv1,VCaPにHDAC阻害剤OBP-801を投与し、増殖抑制を確認するとともに、共通に発現が変化する遺伝子・miRNAを同定した。実験②:実験①で同定したmiRNAから、前立腺癌の増殖促進に重要なAndrogen receptor(AR)の発現を抑制する候補miRNAとして、miR-320aを同定した。実験③:miR-320aの発現上昇により22Rv1、VCaPのAR発現が抑制されることを確認した。また、前立腺発癌transgenicラットにOBP-801を投与した結果、前立腺癌組織内のmiR-320a発現が上昇し、癌細胞の細胞増殖が低下した。さらに、前立腺癌患者様の癌組織内において、ホルモン治療後残存した前立腺癌細胞では、ホルモン未治療前立腺癌細胞と比較してmiR-320aの発現が高いことを確認した。
以上より我々は、HDAC 阻害剤が、miR-320a発現上昇を介したAR発現の抑制により、ホルモン治療抵抗性前立腺癌の増殖を網羅的に抑制する可能性を示した。本研究成果は、HDAC阻害剤が、既存の抗癌剤や分子標的療法、放射線療法とは異なる抗癌作用を有することを示唆し、ホルモン治療抵抗性前立腺癌患者様への新たな治療の選択肢になり得る道筋を示した点で意義があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究実施計画として、実験①:複数のホルモン治療抵抗性前立腺癌細胞株でHDAC 阻害剤により発現変化する遺伝子・miRNA を同定する。実験②:同定した遺伝子から、前立腺癌の増殖メカニズムを抑制する責任遺伝子・miRNA の候補を選出する。実験③:候補遺伝子・miRNA の癌増殖抑制効果のin vivo・in vitro における確認、およびホルモン治療抵抗性前立腺癌患者様の癌組織における当該遺伝子・miRNAの発現を検証する、という3段階の実験を計画していた。現在、実験①~③いずれもほぼ当初の計画通り実験を遂行し、本研究の目的とするHDAC 阻害剤が異なる増殖機構を有する複数のホルモン治療抵抗性前立腺癌の増殖を網羅的に抑制するメカニズムの一端が明らかになりつつあるため、研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、前立腺癌細胞株を用いてmiR-320aの発現変化がAR発現に与える影響をより詳細に検討するとともに、in vivo実験においてもHDAC阻害剤を介したAR発現抑制が観察されるかどうか確認し、これまでの研究成果を補完していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定より順調に実験が進み、実験失敗・再実験の必要が無くなったため。 またmiRNA array, cDNA arrayが当初予想より安価に抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験に必要なNOD/SCIDマウスの購入、およびin vitro実験の再現実験に使用する。
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