研究課題
ホルモン治療に抵抗性となった前立腺癌に対する治療法は限られており、新規治療法の開発が求められている。我々はheterogeneityに富むホルモン治療抵抗性前立腺癌に対する、エピゲノム制御を介した網羅的な増殖抑制メカニズムの解明を目的として研究を行った。我々はエピゲノム機構の1つであり遺伝子発現を網羅的に制御するヒストンアセチル化阻害剤(HDAC阻害剤)に着目し、HDAC阻害剤OBP-801を用いてホルモン治療抵抗性前立腺癌の増殖抑制メカニズムの解明を行った。OBP-801は複数のホルモン治療抵抗性前立腺癌細胞株の増殖を抑制し、さらに癌の増殖に重要なアンドロゲン受容体(AR)mRNA、AR蛋白の発現を抑制した。OBP-801暴露時にAR発現抑制とAR転写活性に相関がみられなかったことから、AR発現抑制には転写後修飾機構の関与が示唆された。我々は転写後修飾機構の1つであるmiRNAに着目し、OBP-801暴露後に3つの前立腺癌細胞株で発現上昇したmiRNAを同定した。その中でmiR-320aは、発現上昇した全miRNAの中でヒト前立腺癌組織におけるAR発現と最も逆相関し、ヒト前立腺癌患者の予後と最も相関した。precursor miR-320a導入により前立腺癌細胞株の増殖抑制、AR発現抑制がみられた。またヒト前立腺癌組織において、正常前立腺癌細胞と比較してmiR-320a発現の減弱が確認された。さらにin vivo実験によりOBP-801を介した前立腺癌発生・増殖の抑制およびmiR-320a発現上昇がみられた。以上より我々は、ホルモン治療抵抗性前立腺癌に対する網羅的増殖抑制メカニズムとして、HDAC阻害剤によるmiR-320a発現上昇を介したAR発現抑制機構を解明した。そしてエピゲノム制御は、heterogeneityに富む癌に対する有効な治療法となり得ることが示唆された。
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Cancer Research
巻: 76 ページ: 4192-4204
10.1158/0008-5472
http://www.oncolys.com/jp/pipeline/obp-801.html