2023年度は新型コロナウイルスによる渡航制限は解消したものの、本研究プロジェクトの研究対象である労働者による社会運動やNGOなど支援団体の存在は引き続き中国政府によって封鎖され、中国における新たな研究は展開できない状況が続いた。そのため、研究プロジェクトの最終年度に当たり2つの研究を推進した。 1つは労働運動の担い手となる労働者の養成課程をめぐり、中国における後期中等職業教育の現状と労働運動との関わりについて、過去の報告者の調査と最新の労働運動の動きを関連づけて分析、考察した。その結果、改革開放後に主に教育部門の政策として急拡大した後期中等職業教育は、就職後の職業階層の労働条件や賃金水準が不十分なために若者とその家族にとって魅力が乏しい構造が今日まで一貫しており、その一部がストなどの労働運動として表出したことが明らかになった。本研究成果は石井知章編『ポストコロナにおける中国の労働社会』の1章にまとめた。 もう1つの研究としては、日本における中国人就業者と家族を含む住人の社会的統合状況について、直近の動きとこれまでの変遷を、日本の当事者支援団体と既往研究の整理により行った。中国出身の日本在住者は、日本社会の中で定着度、職業階層共に高く、高度に安定的なエスニックグループである。本稿の成果としては、彼らの居住地選びが家族重視、子どもの教育重視であることを明らかにしている。 本研究課題は立上げ後まもなく、中国政府による労働NGO弾圧という暗黒の時代に突入してしまったため、新たな動きを追うことはかなわず、これまでの活動の流れをまとめ、記録することが中心となった。しかし、国外や国内の個人の動きとしてみられる労働者の権利保護や支援活動の動きには今後も注視していく必要がある。その一部を研究成果として示すことができたと考える。
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