研究課題
人類活動に伴って大気に放出されたCO2は,温室効果をもつだけでなく,海水に溶け込むことでpHを低下させている。この海洋環境の変化が生態系サービスに及す影響を把握することは重要な課題であるが,昇温と海洋酸性化の複合影響に関する知見は著しく不足している。本研究では海洋生態系の基盤である植物プランクトンを対象とし,昇温や海洋酸性化の複合的な環境変化に対する生物多様性の変化を調査することで,将来の海洋生態系サービス機能の変化の可能性を見いだすことを目的とする。天然プランクトン群集を用いた培養実験を,冬季の西部亜寒帯北太平洋で1回(学術研究船「白鳳丸」KH15-01次航海(2015年3月)),夏季の西部北極海で2回(海洋地球研究船「みらい」MR15-03(2015年9月)およびMR16-06次航海(2016年9月))行った。冬期のKH15-01次航海で行った実験では,温暖化と酸性化の相乗作用により,小型の植物プランクトンが比増殖速度を加速させていた一方で,大型である珪藻の比増殖速度が低下した。西部北極海で行った2回の実験では,温暖化によりほぼ全ての植物プランクトン分類群の比増殖速度が上昇していたが,2015年の実験では,昇温条件下において珪藻の多様性の低下がみられた。これらの結果から,天然環境における植物プランクトンは,さまざまなニッチを持った植物プランクトンが共存していること,環境変化によって特定のニッチを持った種あるいは分類群が卓越し得ることが明らかになった。すなわち,環境変化は多様性を低下させ,さらなる環境ストレスにさらされた場合に生産性を維持するための生態系の頑強性が低下することを示唆している。本研究成果から,海洋生態系の持続可能な利用を考える上では,人為起源の環境じょう乱を可能な限り低減させることが重要だと結論付けられる。
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