研究課題
イギリス気象庁Met Officeに2016年6月29日-12月21日まで滞在し、Rob Allan博士と、図書館に埋もれてこれまで利用されなかった過去の気象資料をデジタルデータに復元する「データレスキュー」を行い、過去100年間の気候を明らかにする共同研究を行った。アジア太平洋地域に着目して、個々に復元した気象データを持ち寄り、情報共有を行い、重複した資料や足りない資料の整理を行い、「データレスキュー」する方向性を確認した。続いてイギリス気象庁に所蔵されている未収集の気象資料を把握し、新たにイギリスで「データレスキュー」の活動をしているClive Wilkinson博士と今後資料を収集する共同研究を立ち上げた。また、共同研究者のRob Allanが代表を務めている国際的な「データレスキュー」の機関Atmospheric Circulation Reconstructions over the Earth (ACRE)が主催したアイルランド、中国北京と香港での国際会議に参加し、過去100年間のアジア域の気候を調べた研究成果を発表し、「データレスキュー」を行っている国際的な研究者ネットワークを構築した。その中で、特筆する成果として、アメリカ海洋大気庁のKevin Woodとアメリカ国立公文書館のMark Mollanと共同して、江戸時代の1852-1855年の浦賀寄港時も含めたペリー艦隊10隻の気象データが書かれた航海日誌を入手した。ドイツ気象局のBirger Tinzと共同してドイツ占領時代の西太平洋の島々の1886-1914年の気象データを入手した。中国気象局のGuoyu Renと共同でイギリス占領時代の中国各地の税関で行われた1879-1949年の気象資料を「データレスキュー」する計画を立ち上げたことが挙げられる。今後はこれらの資料を用いた共同研究を実施する計画である。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究目的だった「基盤研究(B)H25-27」で収集し復元した20世紀のアジア域の気象データの改善計画は、滞在先のイギリス気象庁が実施している気象データの品質管理の手法を学ぶことができ、これまでに収集してきた地上気象データ、高層気象データに適用することで、実現する目処が立った。また、当初の研究目的だったイギリス気象庁が所有する気象データを活用して、20世紀の夏季西太平洋モンスーンの長期変動の影響に関する研究を地球規模に広げて解析を行う計画は、20世紀のアジア域の気象データに関して、イギリス気象庁だけでなく、共同研究者のRob Allanが代表を務めている国際的な「データレスキュー」の機関Atmospheric Circulation Reconstructions over the Earth (ACRE)に参画している各国の研究者との間でも、お互いが所有している気象データの情報交換や共有を行い、これまで未収集だった気象データが次々と明らかにできた。順調に研究目的を遂行できている。さらに、研究計画で対象になっていなかった19世紀前半の江戸時代の気象資料が、日本周辺を含むアジア域に広く展開した大英帝国時代の船舶をはじめ、アメリカ、オランダ、ロシア、イタリア、フランス、ドイツ、ポルトガルなどの船舶の航海日誌に気象データが記録され、それが大量に使用されずに図書館に所蔵されていることを発見した。これらの資料は今後の研究に発展に大きく貢献できることが期待され、課題期間内にできるだけ多くの資料を入手し、研究に役立てる計画である。また、JSPS-LEADSNET(リーズネット)事業の国際共同研究強化の研究交流会に参加し、同じ課題が採択された研究者が集い、お互いの研究の進捗状況や情報共有ができた点は今後の活動に大いに参考になった。
今後再び、イギリス気象庁Met Officeに2017年7月25日-8月29日までの予定で滞在し、共同研究者のRob Allan博士と、昨年度発見した江戸時代に日本を含むアジア域に展開したイギリスの船舶の航海日誌をClive Wilkinson博士とも共同して収集していく計画である。その際、資料の選定、必要な予算、手続きなどをイギリス訪問中に話し合い解決する。昨年度アジア域の気象データについて、データレスキューの国際機関ARCEの研究者間で情報共有したが、資料が重複して所有している問題があった。それぞれが所有している気象資料の全体像が把握できるようにデータインベントリ(資料一覧)を今後順次作成していく。これまで集まった気象資料をもとに19世紀から20世紀前半の期間について、アジア太平洋域の気候に大きな影響を与えるエルニーニョ、モンスーン、台風を選び解析を進めていく計画である。
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