研究課題
本国際共同研究の目的は、申請者がこれまでに見出したエピゲノム修飾因子の立体構造を解析することで、そのメカニズムを原子レベルで明らかにし、将来の創薬に向けた足がかりを作ることである。その際に、従来構造生物学分野で主流であったX線結晶構造解析ではなく、近年爆発的な勢いで普及しつつあるクライオ電子顕微鏡を用いて行うものである。クライオ電子顕微鏡は2012年頃から論文報告が相次ぐようになり、国際的に非常に注目されている手法であるにも関わらず、国内で系統的に解析できる施設は限られており、論文で報告されているような解像度を単粒子解析で行えているとは言い難い状況である。従って、本研究では、2015年ー2016年にかけて単粒子解析の分野で世界最高の解像度を報告している米国NIHのSubramaniam研と共同で行うことで、これまでは難しかったタンパク質や複雑な修飾を持つと予想される因子に関しての単粒子解析の技術を習得することも目的の一つである。初年度にあたる平成28年度は、クライオ電子顕微鏡の様々な工程の中でもimage processing、model buildingの手法を中心に行った。クライオ電子顕微鏡の分野ではimage processingはRELIONというソフトウェアをスーパーコンピューター上で作動させることで行うのが一般的であり、現在までに、一つの酵素及びそのmutantに関して、3オングストロームの解像度での解析が終了している。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目的は、クライオ電子顕微鏡を用いたタンパク質の立体構造解析におけるimage processingの手法を学ぶことであった。現在までに様々な手法が報告されているが、ケンブリッジ大のDr. Sheresらによって開発されたRELIONというソフトウェアが主流であるため、まずは既に原子レベルでの解析が報告されているベータガラクトシダーゼや乳酸脱水素酵素をモデルとして立体構造構築を行い、原子レベルでの解像度を得ることに成功した。次に、共同研究先で新たに挑んでいる酵素に関する解析を行った。この酵素は正常な細胞では活性は発現が低く四量体であるが、がん細胞では構造が二量体に変化し、活性が落ちる。更に家族性のがんでは一つのアミノ酸に変異が入ることが分かっている。そこで、四量体から二量体への変化、更にアロステリック活性を持つ小分子との相互作用解析を目的として、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を行った。現在までに原子レベルの一つの基準とされる3オングストロームを切る解像度での立体構造モデルが得られているため、概ね研究は順調に進んでいると考えられる。
今後の研究方針としては、まず第一に現在解析を行っている酵素の立体構造モデルを論文化して報告することである。現在、電子密度マップが得られている状態であるが、ここからmodel buildingを行いクライオ電子顕微鏡でのモデルを作成する。更にmutant、阻害剤の結合モデルを解き明かすことで、阻害剤の結合部位、酵素活性に与える影響を明らかにし、論文化する。上記過程を通して、クライオ電子顕微鏡を用いた小分子の単粒子解析は一通りの作業をマスターすることになるので、次にエピゲノム修飾因子の解析に取りかかる。標的とする酵素は、申請者らが基研究となる若手Aで見出した、血管新生に重要な因子である。この酵素をSf9細胞を用いた系でタンパク大量発現を行い、クライオ電子顕微鏡解析にもっていけるだけの量と質を確保する。その後、FEI社のTital Kriosを用いて電子顕微鏡像を取得、解析する。研究の進み具合によっては、この酵素のリン酸化などの修飾状態をプロテオミクスを用いて解析し、クライオ電子顕微鏡での解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Nucleic Acids Research
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10.1093/nar/gkx159.
http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/res/res20170328.htm