本国際共同研究の目的は、申請者がこれまでに見出したエピゲノム修飾因子の立体構造を解析することで、そのメカニズムを原子レベルで明らかにし、将来の創薬に向けた足がかりを作ることである。その際に、従来構造生物学分野で主流であったX線結晶構造解析ではなく、近年爆発的な勢いで普及しつつあるクライオ電子顕微鏡を用いて行うものである。 研究期間前半(平成28年度)は、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析の手法習得を行った。この解析では、タンパク質の精製、グリッドの作成、写真を撮る、画像データからのimage processing、といった過程でタンパク質の3次元構造モデルを作成する。平成28年度は主に、image processingの手法習得に時間を費やした。 最終年度にあたる平成29年度は、実際に標的となるタンパク質、及び、その変異体を用いて、単粒子解析を行った。標的となるタンパク質はテトラマーで240kDaと、現在のクライオ電子顕微鏡で見るには小さいが、野生型も変異型もどちらも3オングストローム前後の解像度で立体構造を決定することが出来た。 更に、作成された立体構造モデルから、変異が入ることで酵素のテトラマーの安定性が変化すること、アロステリック制御が変化することなどを見出した。 本国際共同研究は、日本では普及の遅れている、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析の手法を習得することが主要な目的であったことを考えると、大きな成果を生み出したと言える。
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