時系列信号から規則を抽出する能力は、連続音声から単語を切り取る統計学習、単語間の推移規則を獲得する文法学習の基礎となる。こうした学習がどのような機序で行われているのか解明することを目的に、32チャンネル脳波計を使って、系列反応課題(SRT)遂行中の被験者から事象関連電位を記録した。12名の被験者からデータを得た。また、それらのデータから、事象関連電位の発生部位を推定した。恣意的に決めたリスト長12の系列を、4つのボタンにあてはめて利き手の人差し指で順次押してゆく課題を行った。反応時間は次第に短くなってゆくが、時々ランダム系列を挿入すると、再び反応時間が長くなることから、ボタン押し自体の技巧の向上ではなく、時系列の学習によって反応時間が短くなっていゆくことがわかる。ボタン押しと同期した事象関連電位を測定すると、反応潜時400ミリ秒の陰性電位(N400)の発生が見られた。この電位の電圧は、反応時間と相関して学習にともなって現象してゆくことから、学習達成度の指標としてこれを使うことが可能であった。N400の電源を推定すると、大脳基底核および前帯状皮質が発生源としたと考えて矛盾のないデータが得られた。このことから、SRTは大脳基底核における系列生成、前帯状皮質における系列誤差判定の2つの機能によって学習されてゆく課題であると考えられる。今後さらに電源推定の精度をあげ、他の脳機能イメージングとも組み合わせて、規則学習の神経メカニズムを解明してゆく必要があろう。
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