研究概要 |
本研究では、1.規則学習が行われる過程や達成度を脳活動から探ることができるのか、2.音声の学習・生成過程で重要とされる聴覚フィードバック処理とエラー検出が、どのような神経処理過程を経て行われているのか、ということを明らかにするため、健常成人を対象に事象関連電位(ERP)記録を行った。 1.規則学習課題では、12個でひとまとまりの視覚刺激を繰り返し提示し,これに対してボタン押しをさせて反応時間を求めるというserial reaction time task(SRT)を用いた。この結果、学習の進展に伴い反応時間が短縮し、刺激提示後約200ms付近には学習関連電位(P2)が出現した。この電位は規則学習の進展につれ、振幅が上昇するが、学習が達成すると振幅が減少していた。このことから、ERPが規則学習の行われる過程および学習の達成度を知る上でよい指標となることが示唆された。 2.音声の学習・生成過程における聴覚フィードバックの役割を検証するため、正しい運動に対して誤った聴覚フィードバックを与えるという環境を設定した。この課題では、MIDIキーボード演奏中に、一定の確率で実際に弾いた音からずれた音を聴覚フィードバックとして与える。課題中にERPを記録したところ、今まで短期記憶と聴覚入力とのミスマッチに対して引き起こされると考えられていた陰性電位mismatch negativity(MMN)と類似した成分が、逸脱音開始後200ms付近に、ピアノ経験者においてのみ出現した。これによりピアノ経験者はキーボードを演奏する際に、脳内で音を動的に生成して聴覚フィードバックとの照合を行い、エラー制御をしていると考えられる。この結果は、ヒトの言語音声産出時においても、同様に、音の表象を動的に生成し、聴覚フィードバックとの照合によってエラー検出・制御を行っている可能性を示唆するものである。
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