研究概要 |
昆虫はその小さな体に存在する僅かな水分を利用して,個体のホメオスタシス(恒常性維持),成長・変態,生殖まで完結している。水は生命現象にとって必須の物質であり,適正な維持管理は昆虫においても生存戦略の基本である。細胞における水専用の通過路(アクアポリン)の働きが組織内外の浸透圧に影響を与え,個体としての耐乾燥能力にも反映されていると考えられる。本研究では,消化・排泄・呼吸・休眠など昆虫の生命活動のなかで,能動輸送機構による水分管理やイオン調節が,開放性血管系生物である昆虫の乾燥耐性の支持基盤としてどのように貢献しているのか,鱗翅目昆虫だけでなく極度のストレス下に棲息する昆虫も用い,昆虫にとっての水代謝や水分調節機構の生理的役割について調査した。得られた成果は以下のとおりである。 (1)鱗翅目昆虫(カイコ幼虫)から2種のアクアポリンをクローン化した。さらに3種の別のアクアポリンが存在することも分かった。 (2)2種のうち,一つはカエル卵母細胞の外来遺伝子発現系で,水輸送機能を示し,後腸で圧倒的に強い発現を示した。もう一っは,中腸やマルピーギ管(昆虫の腎臓)に分布していた。 (3)2種のアクアポリンに対する特異的抗体で調べたところ,後腸の上皮細胞表層に局在していた。一方,中腸のタイプは,中腸上皮の円筒細胞の表層に特異的に認められた。 (4)ナシやイネの鱗翅目害虫(シンクイガやニカメイガ)でのアクアポリンを同定した。 (5)クリプトビオシスを行うネムリュスリカ幼虫においても2種類のアクアポリンを同定した。 昆虫アクアポリンの研究は,ここ数年来,海外では吸血性や植物吸汁性昆虫で行われてきているが,本研究班によって,鱗翅目幼虫における水代謝の生理機能や乾燥耐性とアクアポリンとの関連について明らかになり,陸地に棲む開放性血管系動物としての昆虫アクアポリンの重要性を解明した。
|