研究概要 |
インドネシアにおける従来の抗マラリア剤(クロロキン,SP合剤)は,多くの治療失敗例を生み出し,熱帯熱マラリア原虫の薬剤耐性は全土に広がっていると考えられる。インドネシア政府もこれに対し,マラリア治療方針をアルテスネート・アモディアキンの併用療法へと切り替えつつある。私達はロンボク・スンバワ島の2ヶ所から採取した熱帯熱マラリア原虫が,クロロキン耐性関連遺伝子についてはPfcrtについてはほぼ100%,pfmdr1については約50%の変異を認めている。この結果に基づき両島においてアルテスネート・アモディアキン併用療法の効果試験を行った。方法は治療後28日間の追跡調査によった。どちらの島においても併用療法は全例に奏効し,みるべき副作用も示さなかった。クロロキンなどと同様成熟ガメトサイトに対する殺滅作用は認めなかった。ガメトサイト形成阻止作用は認められた。例数が少ないので何とも言えないが,治療後1週間目のPCR陽性患者(半数はガメトサイト陽性)のうちpfmdr-1の変異型86Yより野生型N86が大部分を占めたことは何かの意味をもつのだろうか。インドネシア全体の耐性遺伝子変異の多様性を調べるために,上記両島以外にジャワ島東部パチタン地域,東カリマンタン,スパク地域,スマトラ島リアウ州タンビラハン地域において熱帯熱マラリア原虫材料が収集された。ロンボク島ではパプアニューギニアタイプと呼ばれるPfcrt変異が42/48(87.5%),スンバワ島では21/21(100%)で,変異の多様性は少ない。これまで分析された中では東カリマンタンにおける多様性が大きく,インドネシアの最初のクロロキン耐性出現報告が東カリマンタンとイリヤンジャヤ(現パプア)島であることから,両地域では,多くのクロロキン耐性を生じさせる風土があり,そのうちの一部が他地域へと移動したのであろうか。
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